レイシャルメモリー 1-07


「追えっ!」
 アルトスの声が、ほとんど同時に駆け出したフォースの背中に飛ぶ。フォースは床の円形を剣の鞘で傷付けながら、その通路に駈け込んだ。
 シャイア神も高度を下げ、フォースの後に続いてくる。ティオはシャイア神の背中を守るようにその後から入ってきた。想像通り、ここにも黒い妖精が数多く放たれている。
 抜け道とおぼしき通路があるだろうことは、はじめから予測していた。もしかしたら術の根源を絶つと言っていた妖精は、この通路の先から来るかもしれないと思う。この状況は長くは続かないはずだ。フォースはそう信じて、ただ剣を振るった。
 通路がほんの少し広くなっている場所に出た。黒い妖精の数は格段に減っている。通路の向こう側で、やはり乱戦になっているらしく、召喚された妖精が斬られた悲鳴なのか咆哮なのかが聞こえてくる。
 城の手前で別れた彼らがいるのだろう。光明が見えた、そう思った時、広くなっている場所の中程にマクヴァルがたたずんでいるのが見えた。身体をこちらに向けて目を閉じている。
 間にいる妖精が伸ばしてくる腕を裁ち、足を斬って動けなくすると、フォースはその妖精の前に出た。フォースのさらに前に、アルトスの背中が躍り込んでくる。
 そこで、あと何歩かで届くだろうマクヴァルの口元が、忙しく動いているのに気付いた。術が発動される気配か、嫌な予感か、フォースの背筋に冷たいモノが走った。
「レイクスを斬り捨てろ」
 そう言うとマクヴァルは目を開いて冷笑を浮かべた。前にいたアルトスが動きを止め、ゆっくりと身体をこちらに向ける。その表情からは感情が消えていた。
 アルトスは無造作に攻撃を仕掛けてきた。操られているせいで動きは鈍いが力は強い。その攻撃を剣で受け、ここに来るまでにけっこうな体力を使っていることに気付かされる。だが、アルトスがいなければ、こんな疲れではすまなかっただろう。
 この戦いを長引かせるわけにはいかないが、簡単に決着を付けられる相手ではない。この状態で決着を付けてもいけないと思う。アルトスが相手では、短剣も手にしてマクヴァルを狙うなどできそうにない。どうしたらいいかと考えを巡らせながら、フォースは何度かの攻撃を受け流した。
 ブツブツと呪文を唱え続けていたマクヴァルが、ふと視界から消えた。思わずリディアのいる空間に視線を走らせると、虹色の光をフォースの後方へと向けている。フォースは振り下ろされた剣身をかいくぐってアルトスの後ろへと回り込み、少し距離を取った。
 アルトスの剣身は床直前で止まった。切っ先が目の前を通ったのだろう、そのすぐ前でマクヴァルがアルトスを見つめて顔を青くしている。

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