レイシャルメモリー 1-08
その手には、黒い短剣が握られていた。それこそが呪術の短剣なのだろう。妖精が持っていたモノと比べものにならないほど、前に見た短剣と同じに見える。
そしてマクヴァルが硬直している間は、アルトスも動かなかった。狙い目はそこにしかない。
アルトスは振り返りざま右から左へと剣を薙いできた。フォースはその攻撃を受け流すと、開いた右に飛び込みマクヴァルの前に出る。
アルトスが体制を整えるより先に短剣を抜こうとしたフォースに、横から黒い妖精が飛び込んできた。短剣での攻撃をあきらめ、黒い妖精の胴を薙ぐ。
マクヴァルが放ったシェイド神の力を、飛来した虹色の光がフォースの側で押し包む。その光を断つようにアルトスの剣身が向かってきた。その攻撃を剣で受け、飛ばされるまま間を取る。そこにまた召喚された妖精が向かってきた。
アルトスとマクヴァルに気を配ったまま、黒い妖精を斬り捨てる。向き直るフォースの視界に、城の手前で別れた妖精が見えた。味方が三人増えれば、今よりは優位になるかもしれない。
マクヴァルの手にある黒い力の球が、ティオに向かって飛び、虹色の光がそれを捉える。フォースにはアルトスが斬り掛かってきた。
振り下ろされる剣を受け、上に向いた視界の中に、リディアに当て身を食らわせるリーシャが入ってきた。
「リディアっ!」
思わず名前を呼んだが、中空なので手が出ない。短剣を抜き、リーシャに向けて投げようとしたフォースに、アルトスがさらに攻撃を仕掛けてくる。
リディアが気を失ってしまったからか、短剣が光っていない。いつもなら触ることすら許さないシャイア神の火花も飛んでいない。リディアを抱えて石室に戻ろうとするリーシャに向かって、ティオが巨大化を始めた。
リディアに手を伸ばすティオに、マクヴァルが飛ばした闇の球体がぶつかって破裂する。ティオの巨大化が止まり、手が届かぬままひっくり返る。
数体の妖精がティオの下敷きになり叫び声を上げ、地鳴りの音と共に辺りが揺れた。バラバラと天井から小石が落ち始める。
「崩れる!」
通路の奥から若い妖精の声が響いた。マクヴァルはフォースに冷笑を向けると、身体をひるがえして石室へと向かう。後を追おうとしたフォースの前に、アルトスが立ちはだかった。
薙いでくる攻撃を受けた時、ティオが頭を上げるのが見えた。バリバリと天井が大きな音を立てる。
「危ない!」
ティオの声のあと、視界が落ちてくる石や土でさえぎられ、身体のあちこちに衝撃がくる。壁にあったランプが落ち、その上にもがれきが重なっていく。
空間は闇に包まれ、遅れて落ちた小石がひとつ、カランと乾いた音を立てた。
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