レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
第3部5章 創世の末葉
2. 神の力 01


 石の床と石の扉がガリガリと音を立て、石室と通路を隔てていく。石の扉は完全に閉じる前に動きを止めた。
 充分か、とマクヴァルは思った。戦士さえ通れなくなればそれでいいのだ。こんなことに時間を掛けるわけにはいかない。
 石台を振り返ると、リーシャがリディアをその上に寝かせていた。
「まさか本当に動いてくれるとは」
 マクヴァルが薄笑いを浮かべると、リーシャはフッと空気で笑った。
「アンタのためじゃないわ」
 ツンとそっぽを向くと、私のためよ、と、付け足す。
「それでも、ありがたい」
 マクヴァルはそう言ってリーシャに笑みを向けた。
 愛想よくはしていたが、マクヴァルにとってリーシャの存在はどうでもよかった。なにせ目の前にはシャイア神の巫女がいる。しかもフォースは崩落に巻き込まれている。
 フォースが少しでも命を保っているなら、さらに幸運だ。生きていたとしても、あの崩落にあえば無傷ではいられないだろう。傷が深ければ深いほど、短剣で鏡に封じることも容易になる。
 まずは、シャイア神の力を取り込む術を完成させてしまえばいい。そうなれば、戦士はただの神の守護者に戻る。降臨を解かれることもなくなるし、神の力を使えばどうにでもできる存在になるのだ。
 マクヴァルは石台に歩み寄った。リーシャはマクヴァルの側にいるのがイヤだとばかりに眉を寄せると、石台を離れて後ろに下がり、羽を動かして中空へと浮かび上がった。
 マクヴァルはリディアの顔をのぞき込んだ。遠見をした時に、鏡の中でなら見たことがあったが、自分の目でじかに見るのは初めてだった。
 黒鏡で見た姿を美しいと思っていた。だが実際はそれ以上だ。白くなめらかな肌、しっとりと艶やかな唇、琥珀色に輝く絹糸のような髪。それらが絶妙に作用しあい、清純でいて色気のある容姿を形作っている。
 マクヴァルは思わずリディアの頬に触れた。指先にきめ細かでなめらかな感覚が伝わってくる。
「ん……」
 リディアの眉が寄り、唇から息が漏れた。
「そろそろ気付くか」
 マクヴァルは石台の隅から鎖で繋がっている拘束具を取り出し、リディアの右足首に取り付け始めた。ガチャッと冷たい金属音で、リディアがうっすらと瞳を開く。
 マクヴァルが顔をのぞき込むと、リディアはハッと息を飲んだ。マクヴァルから逃れようとほんの少しずり上がっただけで、拘束具が右足首を引きとどめた。
 恐怖で歪んだ顔に笑みを向けると、マクヴァルはリディアの両手首をつかみ取る。
「イヤ、離してっ」

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