レイシャルメモリー 2-02


 抵抗はされたがその力は強くはない。さほど必死にならなくても石台の上に両方の手首を押しつけることができた。シャイア神の放つ白い火花を完全に無視し、マクヴァルは笑みを浮かべたままリディアに顔を近づける。
「神の力同士は相殺できる。どんな抵抗も無駄だよ」
 リディアはギュッと眉を寄せ、顔を背けた。これだけ顔をしかめても、美しさは少しも損なわれていない。顔を背けたことで顕わになったうなじに、マクヴァルはまた惹き付けられた。
「儀式も呪文さえ無視すればただの情交だ。そんなに怖がることはない」
 その言葉に恐怖が増したのか、リディアの抵抗が強くなる。
「や、いや、フォースっ」
「レイクスなら、崩れた土の下だ。呼んでも無駄だぞ」
 ビクッと身体を震わせ、リディアは凍り付いたように動きを止めた。ゆっくりと視線をマクヴァルに合わせる。
「崩れ、た……?」
「ああ、お前は気を失っていたからな。崩落が起こったんだよ。お前が連れてきた二人、レイクスも緑の怪物も埋まっている」
 リディアの顔から血の気が引いていく。マクヴァルは冷笑を浮かべ、うなずいて見せた。
「……、嘘」
「そう思いたければ思っているがいい。儀式が済んだら見せてやる。お前が望むなら、遺体も掘り起こしてやるぞ」
「嘘よ、そんなの嘘っ」
 再び抵抗を始めたリディアの両手首を片手で押さえつけ、拘束具を手にする。
「やめて、解いて、いやぁ」
 マクヴァルが石台の裏に回ると、部屋の隅から小さな笑い声が上がった。リディアが声の方に視線を向ける。
「だから彼に抱かれておけばよかったのに」
「あなたは……」
 リディアのしかめた顔を見て、リーシャはまた可笑しそうに笑った。
「おなかを蹴飛ばされたのも頭に来てるのよ。さぞ彼も心残りでしょうね」
 リーシャは肩をすくめて首を横に振った。拘束から逃れようとガチャガチャと鎖の音を立てるリディアの側に、黒曜石の短剣を手にしたマクヴァルが戻ってくる。
「おとなしくしていないと、身体に傷が付くぞ」
 マクヴァルはリディアに見せつけながら、一度頬に短剣を突きつけると、喉元から服の間に黒い剣身を差し込み、一気にスカートの裾まで服を裂いた。ただの布切れになった服は、リディアの肌を左右に滑り落ちる。
 太ももの短剣に気付いてそれを手にすると、マクヴァルは、くくり付けるための革紐をその短剣で断ち切った。短剣を石の隙間に差し込み、横方向に力を込めて剣身を折る。
 肌があらわになったリディアに視線を戻すと、その身体から虹色の光がわずかずつ立ちのぼっていくのが見えた。リディアは身体を硬直させ、震える唇でフォースの名前を繰り返しつぶやいている。

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