レイシャルメモリー 2-04
ガチャっと金属音を立て、アルトスが上体を起こした。鎧が変形しているのか、ギギギとプレートが擦れる音がする。立ち上がった顔には、まだ表情が無い。
慌てたティオが、アルトスに後ろから抱きついた。アルトスはティオの腕を力で押し返して崩れた土砂の上に転がし、フォースに向かってくる。
その時、少し離れた地面から、白い強烈な光が膨れ上がった。一瞬でまわりが見えなくなる。
術を無効化する術だと、妖精が言っていた光だ。ガッチリ目を閉じたフォースの肩に、惰性で側に来たアルトスが手を掛けた。そのまま引き倒されそうになり、足をかける。
無理な力が掛かった右足に痛みが走り、そのまま一緒にひっくり返った。アルトスの手がフォースの首を探り当て、力を込めてくる。だが光が収まるにつれてアルトスの力が抜けていき、すぐに動かなくなった。
フォースは覆い被さるように倒れ込んだアルトスを横に転がし、光が発せられた方向に声を向ける。
「ありがとう。そっちは大丈夫か?」
「両足をやられていて動けないが大丈夫だ!」
大きく響く声で返事が返ってきた。
「悪い、先に行ってくる。すぐ戻る」
「そうしてくれ!」
返事を聞き、フォースは石室に向かって歩き出した。ティオもついてくる。土砂が山になった部分を過ぎ、足場が平らになったところで走り出す。
アルトスとぶつかったせいで、足の痛みは熱いしびれに変わっている。リディアを助けるまで保って欲しいと祈る以外にない。
行く手に石室の明かりが細く見えてきた。横にずれていた扉を半端に閉めたのだろう。だが、間を通れそうなほど隙間は空いていない。
ドアまでたどり着くと、石室の中が見えた。台の上にリディアが拘束され、そのすぐ側でマクヴァルが何か呪文を唱えている。
開くだろうかと不安に思ったところで、ティオがフッと空気で笑った。その隙間に指を差し込み、腕に力を込める。フォースは剣を抜いて待機した。
ズズッと石が擦れる音が立ち、隙間は簡単に広がっていく。その隙間からリーシャの術が飛び込んできた。もろに食らったティオは、たまらず後ろにひっくり返る。
ちょうど陰にいたフォースは、顔を出したリーシャの腕をつかんで引くと、当て身を食らわせた。起き上がったティオにリーシャを任せて石室へ入ると、手にしていた長剣をマクヴァルに向かって投げる。
マクヴァルは身体を大きく反らして剣を避けた。フォースはマクヴァルと台の間に割って入る。
一瞬見えたリディアの表情がひどく苦しそうだった。そして、その胸に放射状の黒い線があるのが、フォースのまぶたに焼き付いた。
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