レイシャルメモリー 2-06


「あんたが神なら、神の作った何もかも、すべてを愛せるはずだろう。いくら神の力を集め持とうと、あんたは神にはなれない」
「まずは世界の創造が必要なのだ、能書はいらん!」
 マクヴァルは左右の手に力の球を作って飛ばしてきた。フォースは飛んでくる闇の球を短剣で受ける。
 短剣で決着を付けるには、マクヴァルの側まで入り込まなくてはいけない。足のしびれは強くなっている気がする。ならば、少しでも動けるうちに行かねばならない。
 フォースはリディアを握る手に力を込めてからそっと離し、一歩足を踏み出した。
「その怪我で私を殺せると思うのか」
 マクヴァルは薄笑いさえ浮かべてフォースを見ている。マクヴァルの目からも、よほどひどい怪我に見えるのだろう。
 冷ややかな笑みを浮かべながらも、マクヴァルの顔が緊張に包まれた。それでも充分に自信があるのか、マクヴァルの方からも歩を進めてくる。
 フォースはマクヴァルが近づいてくるのを待った。もしもこの場に倒れても、目の前にマクヴァルの足があるなら、そこを攻撃できるかもしれない。
 マクヴァルは距離が縮まる最後の一歩を大きく踏み出し、黒曜石の短剣を振り回してきた。左に避けたそこに、神の力を押しつけるように放出してくる。短剣で避けはしたが、今度は黒い石の刃が眼前に迫った。後ろに下がり、なんとかギリギリで回避する。
 思うように動けない今の状態では、マクヴァルの攻撃すべてには対処できそうにない。それならばシェイド神の力を無視すればいいのだとフォースは思った。媒体を持つ限りは力を食らう衝撃だけで済む。
 マクヴァルは自分が優位だと思ったのだろう、またすぐに短剣を突き出してきた。予想通りに避けた方向へ飛ばしてきた神の力に、フォースはむしろ当たりに行って、マクヴァルと距離をつめる。だが、マクヴァルを斬るには、かすかに踏み込みが足りなかった。
 通り過ぎた切っ先の近さに青くなったマクヴァルは、距離を取ってフォースを観察している。
 不意にリーシャが通路から飛び出した。後を追ったティオの手がリーシャを捕まえる。たぶん反撃の機会をうかがっていたのだろう、リーシャはティオの手を解こうと躍起になっている。だがティオはリーシャを引き寄せて抱きしめるように拘束した。
「やぁよ! 離しなさいよ!」
「寂しいのは分かるよ。悲しいのも分かるよ」
「大事な人を失ったことなんて無いくせに!」
「あるよ。だから分かるよ。でも、俺の大事な人はフォースとリディアを助けて死んだんだ。だからその人のためにも、彼らは無事でいて欲しいんだ」
「でも私、寂しいのも悲しいのも嫌なのよ!」
「そんな思いをしなくて済むように、これからは俺が守ってあげるよ。だからお願い」
「あんたなんて嫌いよ!」
「嫌いでいいよ。守ってあげる。だから今は」
 いきなり子供のような声で泣き出したリーシャの頭を、ティオが一生懸命撫でている。

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