レイシャルメモリー 2-08
「一緒に死んでもいいっ。行こう、父さん」
「ジェイっ?! 離せっ!」
わめき散らしているマクヴァルの前に、フォースは飛び込んだ。胸の辺りを斜めに斬り上げる。黒い神官服が裂け、かすかに出血しているのが見えた。
その瞬間、マクヴァルの傷から黒煙のような闇が吹き出した。
「うわぁ?! 待て、待ってくれ! シェイドォォォ」
マクヴァルの叫びをよそに、闇は膨張を続け石室を満たしていく。その闇の一部がフォースにまつわりついてきた。皮膚を突き破られているような痛みが身体を覆う。堪えきれずにうずくまり、フォースは石の床に膝をついた。グッと目を閉じ、こぶしに力を込めて痛みが過ぎ去るのを待つ。
ふと肩に手が乗った。見上げると、ジェイストークがそこにいた。
「大丈夫ですか? 神の力がレイクス様に入り込んだように見えたのですが」
「そう、みたいだ」
フォースは息の切れる声で答えた。ジェイストークの顔を見ると、その視線がフォースの足に向いている。
「怪我が治ってきています」
確かに身体全体の痛みを感じなくなってきている。これはシェイド神の力の一部なのだろう。フォースはうなずくと、ジェイストークの手を借りて立ち上がった。
マクヴァルが床に倒れているのが目に入った。気を失っているようだ。
「まだ、生きていますが。どうしたら……」
「もう降臨は解けている。殺さなくても、皮膚を傷付けるだけでいいんだそうだ」
「本当に?! では、これで終わった、……ということですか?」
フォースは浅くうなずくと、リディアのいる石台に向かった。自分の傷はすでに気にもならない。ただ、駆け寄れるまで足が回復していることがありがたかった。
側に行くと、リディアの胸にある放射状に伸びた黒い線が目に飛び込んできた。シェイド神が降臨を解いても、残ったままだったのだ。
「リディア、大丈夫か? リディアっ」
フォースはリディアの手首にある拘束具を外しにかかった。外れると、今度は足首の拘束に取り掛かる。
リディアは自由になった手を胸にやり、黒い線をつかもうと指を這わせた。身体は自由になったが、その黒い筋は肌に刻みつけてあるように見え、糸をほどくようには外せそうにない。
「フォース……」
リディアは震える声でフォースを呼んだ。拘束具を外し終わると、フォースはリディアの上半身を抱き起こす。
「くそっ、どうしたらこれを」
フォースの中のシェイド神が、その質問に答えるかのごとく、まるで動悸のように揺れる。
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