レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
第3部5章 創世の末葉
3. はじまり 01


 バラバラと騎士が石室に入ってきた。何人かが手にしているランプで、辺りがとても明るくなる。その中の一人がフォースの側でひざまずいた。それを見て、ジェイストークが指示を出すようフォースに促す。
「マクヴァルに危害を加えず、拘束だけしておいてくれ」
 その命令で、三人の騎士がマクヴァルの元へ行った。フォースは残っている騎士に目を向ける。
「奥にアルトスと、両足を怪我した妖精がいる。その仲間も二人いるはずなんだ。彼らを救助して欲しい。あ、黒い妖精も一緒に埋まっているから気を付けろ」
「御意」
 一人の騎士がフォースにそう返事をすると、手で合図をし、約半数の騎士と共に通路に入っていく。
「もう一つ」
 フォースは石の床に落ちている黒曜石の短剣を指差した。
「その短剣と、たぶんこの部屋のどこかに呪術の黒鏡がある。見つけ出して破砕してくれ」
 その命令で、残りの騎士達も動き出す。その中の一人が短剣を拾い、壁に向かって投げ付けた。カシャンという軽い音と共に、短剣は壁で砕け散る。
「それと」
 フォースはジェイストークに向き直った。向き合ってくる真剣な眼差しに、思わず苦笑する。
「塔の部屋を開けて欲しいんだけど」
「お休みになるのでしたら、レイクス様の私室にご案内いたします」
 ジェイストークは、かしこまって頭を下げた。私室と聞いてキョトンとした顔のフォースに、ジェイストークは笑みを向けてくる。
「ギデナの拠点を越えたとの知らせを受けた時点で、レイクス様の私室を整えてございます」
「……、は? そんなモノが?」
「お伝えしていませんでしたか? 幽閉などされませんでしたら、最初から使っていただけたのですが」
 ジェイストークに、そうか、と苦笑を返しながら、フォースはリディアを抱き上げようとした。リディアは自分で石台から降り、フォースの前に立つ。
「私、自分で」
「だけど、辛そうだ」
 息の荒いリディアの言葉をさえぎって、フォースはそう口にした。リディアは心配げにフォースを見上げる。
「でも、フォースも疲れているのに」
 リディアは心配げにフォースを見上げた。フォースはリディアを見下ろし、肩からかけている神官服の隙間に一瞬のぞいた肌から目を逸らす。
「却下。歩いたら見えそうだから駄目」

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