レイシャルメモリー 3-2


 フォースは、目を丸くしたリディアに笑みを向けた。顔を赤らめたリディアの足元まで、神官服でていねいに包み込んで抱き上げる。リディアはまわりから顔を隠すようにフォースの胸に顔を埋めた。
 それを見てジェイストークが足を踏み出した時、マクヴァルのまわりが騒がしくなった。いつ気付いたのか、マクヴァルが立ち上がっている。フォースと目が合うと、マクヴァルは騎士に腕を取られながらも前に出た。
「どうして私を殺さない。殺せっ」
 フォースに向かってこようとするマクヴァルを、騎士が左右から押しとどめる。フォースはリディアを抱いたまま、マクヴァルを見やった。
「あんたを殺すことが目的じゃない。俺がやらなければならないのはここまでだ」
「いまさらどうやって生きていけというのだ」
「生きていけなんて言ってない。神を抱いてはいたが、あんたは死んだはずだ。それを思いだしてくれるだけでいい」
 フォースの言葉に、マクヴァルは嘲笑を向けてくる。
「馬鹿なことを。これでアルテーリアは神の手を離れたんだぞ?」
「神は見守ってくれる。充分だろう」
 マクヴァルは厳しい表情でフォースを睨みつけた。その視線がふとジェイストークを捉え、懐かしそうに歪む。
「ジェイ、……か?」
 マクヴァルの口から、かすれたような声がした。
「……、父上っ?」
 ハッとして目を向けたジェイストークを見て、マクヴァルは力を込めてまぶたを閉じる。
「駄目だ、この命も身体も渡さん! シャイア神を私によこせっ。神がいないとアルテーリアは……」
「マクヴァル殿」
 ジェイストークはマクヴァルの正面に歩を進めた。いまいましげに細く開けたマクヴァルの視線をまっすぐ見返す。
「すでに神の力で安穏な生活が手に入る時代ではありません。もうあなたは必要ない。父を返してください」
 マクヴァルの見開かれた目が力を失って伏せられる。ジェイストークはマクヴァルに背を向けると、フォースに頭を下げた。
「お待たせしました」
 ジェイストークは顔を上げ、まいりましょう、と微笑むと、フォースの先に立って歩き出す。ひとつひとつは細かなことだが、ジェイストークの言葉づかいや態度が、前よりも丁寧だとフォースは思った。
 石室を出る時、フォースはティオを振り返った。ティオはリーシャを撫でている手をフォースに向かって振り、後でね、と口を動かす。フォースはうなずくと、階段に入った。
 階段を抜け、地下墓地へと出る。真ん中に設置されている新しい棺が目に付いた。たぶんそれが母のモノなのだろうとフォースは思う。
「マクヴァルの側に、いたかったんじゃないのか?」

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