レイシャルメモリー 3-3


 ふと思いつき、フォースは前を行くジェイストークに声を掛けた。ジェイストークは変わらずに歩を進め、神殿へ続く階段を上り始める。
「いえ。レイクス様が危害を加えないよう指示を出してくださいましたので」
 そうは言ったが、うつむいたジェイストークの歩調が一瞬緩んだ。
「父は、……、戻ってくれるでしょうか」
「時間はかかるかもしれない。でも、きっと大丈夫だ。存在する意味を失ったマクヴァルには、もう気力もないだろうし」
 前を行くジェイストークの表情は見えないが、ありがとうございます、とハッキリと言葉が返ってきた。
「そういえば、ジェイの怪我は?」
 フォースがそう言うと、ジェイストークは軽くフォースに身体を向けて、頭を下げた。
「ご心配、恐れ入ります。すでに支障なく過ごしております」
 フォースの胸の辺りで、よかった、とリディアの声がする。それが届いたのか、ジェイストークはもう一度頭を下げた。
 そのままジェイストークの背中を見ながら歩を進めていくと、この城を出た時に通った廊下に出た。二人の騎士が見張りをしている間を通り抜ける。
 奥まで進めばクロフォードの私室がある廊下だ。ジェイストークはクロフォードの私室からひとつ手前の、だがだいぶ離れたところにあるドアで立ち止まった。
「こちらです」
 ジェイストークはドアを開け、フォースに入るように促す。ありがとう、と礼を言ってフォースは室内に目を向けた。クロフォードの部屋ほどではないが、異様に広い。
 正面には大きな窓、部屋の奥には左右に二枚ずつのドアがあり、真ん中手前側には、向かい合った大きなソファが二つと、間にテーブルが見える。部屋に足を踏み入れると、ソファーの横に飾り棚があるのが分かった。
 左手奥のドアからイージスが出てきたのに気付き、フォースは足を止めた。イージスは側まで来るとひざまずき、フォースに向かって頭を下げる。
「レイクス様、リディア様、お帰りなさいませ」
 フォースは思わずリディアの顔を見下ろした。抱き上げられたままだからか、恥ずかしげにしているリディアと目が合う。視線を逸らし、リディアはかすかに身体をよじるように動かした。フォースはリディアをそっと下ろす。
「本日よりリディア様にお仕えさせていただくことになりました」
 イージスはフォースとリディアに敬礼を向けてくる。
「リディアに? って、一体……。ニーニアはどうした?」
「ニーニア様には、私の部下である女性騎士が配属されております」

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