レイシャルメモリー 3-4


 部下、という言葉が引っかかった。身分だの地位だのと、ライザナルは結構うるさい。ということは、リディアがニーニアよりも上に見られているのかもしれない。
 ジェイの言葉尻も前とは違う。フォースはジェイストークの顔に見入った。
「もしかして、ジェイは」
「はい。私はレイクス様の身の回りのお世話をさせていただきます。私とイージスは便宜上、無断で私室に入ることが許されております。ご命令があった場合はその限りではありませんが。どうかご承知おきください」
 無断で、という言葉が頭に響く。確かに王族には違いないのだから、ここに居る間、好き勝手できないのは分かる。だが、それでも妙な違和感が拭えない。
「湯浴みの準備ができております」
 イージスの言葉に、小さな息を繰り返すリディアの頬が、かすかに緩んだ。これだけのことがあったのだから、湯浴みをしたくて当然だろうと思う。だが、相変わらずシャイア神の光が見え隠れしていて、ひどく辛そうに見える。
「大丈夫か? もし倒れでもしたら」
「私が介添えさせていただきます」
 イージスがそう言って礼をする。シャイア神に拒否されると思っていないようなので、敵意はないのだろう。その点では安心できるものの、すべて任せてしまっていいものかと、フォースは眉を寄せてイージスを見つめた。イージスは柔らかい笑みを返してくる。
「あ。申し訳ありません。レイクス様がご一緒に入られますか?」
「はぁっ? いっ、いや、いい。頼むよ」
 思わず弾みで頼んでしまってから、フォースは口を覆ってため息をついた。
「フォース、持っていて」
 リディアは服の裏側からペンタグラムを外して差し出してきた。それを受け取り、フォースは手のひらに包み込む。
 イージスは、こちらです、と部屋の左隅にある二つ並んだドアの奥側を開け、リディアをエスコートして入っていく。そんなところにそんな場所がと驚いていると、ジェイストークがその隣にあるドアを開けた。
「寝室はこちらです。そちらのドアは厨房に続いております」
 厨房まであるとなると、部屋というよりも普通に一件の家だと思う。ジェイストークはもう一つのドアを示し、さらに言葉をつないだ。
「そちらの部屋にもベッドはございますが、極力どちらか一部屋だけお使いいただくようお願いします」
「ああ、掃除が面倒だからか」
 フォースがつぶやいた言葉に、ジェイストークは笑いをこらえながら苦笑を向けてくる。
「何のご冗談ですか。ご一緒に過ごしていただかないと、お世継ぎの誕生が望めないからですよ」
 その言葉に、フォースはブッと吹き出した。

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