レイシャルメモリー 3-5


「冗談はジェイの方だろ。なんでそんな心配を、……、世継ぎ?」
「ええ。ライザナル王家の血筋が途絶えるようなことがあっては一大事です」
 淡々と言ったジェイストークに、フォースは疑わしげな顔を向ける。
「それならレクタードとスティアが」
「皇帝を継がれるのは御嫡男がよろしいかと存じます」
 その言葉に、フォースは呆気にとられた。クロフォードはフォースが継ぐことを、あきらめてくれたとばかり思っていたのだ。
「レクタードに継がせるんじゃ……」
「陛下はレイクス様をお望みです」
「だけど、そうは言ってなかった」
「それはそうでしょう。お伝えしてしまったら来てくださらないかもしれませんでしたから」
 そう言ったジェイストークに、フォースは返す言葉が浮かばなかった。
 城に入ってから対応が前と違う気はしていた。だが、まさかという気持ちもあった。本気なのだろうかと、フォースはジェイストークをうかがう。
「生きて戻ってくださって嬉しい限りです」
 ジェイストークは笑みをたたえ、だが真剣な眼差しをフォースに向けている。フォースは視線を逸らし、片手で顔を覆うようにこめかみを押さえると、思い切り大きなため息をついた。
「今、めまいがした気が……」
「それはいけません。レイクス様も湯浴みなさって、リディア様とご一緒にゆっくり休まれてください」
 相変わらず微笑んでいるジェイストークの言い様に、フォースは頭を抱えた。

   ***

「エレン様の血の宿命を果たされたのですから、残り半分、陛下のお気持ちも汲んでくださればと思います」
 戦士の印である媒体をいつもの場所に巻き直し、髪を拭きながら横目でチラッとだけジェイストークを見て、フォースは元いた部屋に向かう。
「もういいだろう。そんな話は後だ。今はリディアのことが心配で、何を言われても頭に入らない」
 ジェイストークはフォースが湯浴みしているうちから、ずっと同じようなことを言い続けている。
「そもそも、どうしてそのように悩まれるのか、私にはさっぽりわかりません」
「危険だからだ。これ以上リディアをそんな場所に置きたくない。もう充分だろう」
「それでしたら、むしろ継がれた方が安全です。軍のひとつでも護衛に就かせればよろしいのでは」
 その言葉に振り返り、フォースはポカンとジェイストークの顔に見入った。ジェイストークはニコニコとフォースの言葉を待っている。

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