レイシャルメモリー 3-6


「小隊でも親衛隊でもなく軍かよ。どこの暴君だ、それ。そんなんじゃ、身動きひとつ取れないじゃないか」
「ですが、地位はどうあれ、お立場が変わることはありません。何をされていても危険は同じだと思われた方がよろしいかと」
 フォースはため息をついて、部屋へのドアを開けた。フォースに微笑みを向けてくるリディアが目に留まる。フォースは、その微笑みに心底ホッとした。
 リディアは白くて薄い生地でできたローブのような部屋着を身に着け、ソファの背に身体を預けている。くつろいでいるようにも見えるが、側に行くにつれ、虹色の光がまだリディアの身体に見え隠れしているのがハッキリと分かる。
「大丈夫か? 何か変化は?」
「大丈夫よ。こうして静かにしていれば、そんなに辛くないし」
 そんなに辛くないというのは辛いということだ、心配は拭えない。見上げてくるリディアの頬に、フォースは手を伸ばした。フォースの手に頬ずりするように、リディアが顔を寄せてくる。二つのペンタグラムがリディアの手元で揺れた。
 ドアにノックの音が響き、側にいたイージスがドアへと進んだ。外から受け取った軽食と飲み物を、机に運んでくる。
「他に何か必要なモノはございませんでしょうか?」
 イージスの言葉に、リディアは小さく首を振った。
「いえ、もう」
「承知いたしました。では、私はこれで失礼いたします」
 イージスはリディアとフォースに深い礼をした。顔を上げたイージスは、ジェイストークに一度視線を止めてからドアの方へと歩いていく。ジェイストークは一瞬しかめた顔をイージスに向け、フォースに向き直った。
「それでは私も失礼します」
 ああ、とフォースが返事をすると、ジェイストークはドアまで進み、もう一度フォースへ身体を向けると頭を下げる。
「明日は陛下にご面会いただきます。朝身に着けていただくお召し物はクロゼットに掛けてございます。では。起床時にまいります」
 その言葉を聞きながら、フォースはジェイストークの側まで行った。フォースの足元が見えたのか、焦って顔を上げる。
「今は本当に何も考えられないだけだから、あまり心配しないで欲しいんだ」
 フォースの言葉にジェイストークは、申し訳ありません、と頭を下げた。フォースは苦笑を返す。
「そうじゃなくて。ジェイに、全部終わったら皇帝にならないかと言われたのも覚えてる。でも、まだ終わってないんだ。順番に考えるから」
「ありがとうございます」

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