レイシャルメモリー 3-7


 もう一度頭を下げたジェイストークの頬が、少しだけ緩んだ。フォースは視線が合うのを待って口を開く。
「それと。明日もし寝ていても、寝室のドアは開けないで欲しいんだけど」
「承知いたしました。では」
 ジェイストークは、二本手にしていた鍵の一本をフォースに渡し、部屋を出ていった。
 閉まる直前に見えたドアの隙間から、いつの間にか見張りの騎士が立っているのが見えた。ドアに鍵を掛けて振り返ると、リディアはゆっくりと立ち上がる。フォースは駆け寄って、少しふらついているリディアの身体を抱きとめた。
「ごめん、ゴタゴタと」
 リディアは小さく首を横に振る。
「私もフォースが大切だもの。だからジェイさんの気持ち、分かるわ」
「俺はリディアが大切なんだ。失うのが怖い」
 リディアの腕が、フォースの背に回った。リディアが手にしているペンタグラムが二つ、コツンとぶつかる音がする。
「大丈夫。守ってくれるのはフォースなんだもの」
「リディア」
 微笑んで見上げてきたリディアを思い切り抱きすくめ、唇をあわせる。
 フォースの脳裏を、シェイド神が離れた時の心が千切れるような感覚がよぎった。その感覚を、リディアは耐えきってくれるのだろうか。もしもシャイア神に心まで連れて行かれるようなことがあったら、きっと自分も正気を保ってはいられない。
 でも、いつまでも苦しい思いをさせてはおけないのだ。自分のこの手でリディアの存在を、リディア自身に必ず伝え続けてみせる。そう心に決め、フォースはリディアを抱き上げるとベッドの側まで運んだ。
 フォースはリディアの手から二つのペンタグラムを受け取り、ベッド脇の棚に置いてリディアと向き合った。部屋着の肩の部分を腕の方へずらす。薄い生地がリディアの肌をすべり、軽い衣擦れの音を立てて床に落ちた。
「綺麗だ」
 恥ずかしげにうっすらと開けられた瞳にそうささやき、壊れ物を扱うようにそっと抱きしめる。リディアの香気がフォースを満たしていく。目の前にあるつややかな肌で、虹色の光がもがいているように見える。
 不安げに閉じているまぶたに、上気した頬に、小さな息を漏らす唇に、フォースはそっと触れるだけのキスを繰り返した。
 リディアの手が背中にまわり、フォースを抱きしめる。フォースはその手に応え、心の奥底にまで入り込むように深く口づけた。ずっと前から誰よりも何よりも大切で。お互いの存在が消えて無くなるまで、もう二度と離れないと誓う。
 抱き上げてベッドに横たえ、抱きしめるその距離に身体を置く。自分より少し低い体温がひどく心地いい。何度もキスをするうちに、リディアの腕がフォースの首に絡んできた。

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