レイシャルメモリー 3-8


 なめらかで柔らかな白い肌が、少しずつ立ち上るシャイア神の虹色の光を、まるで真珠のように跳ね返している。のけ反った扇情的な肌をたどるように、唇で強く深く、すぐには消えない跡を付けていく。
 弾んだ息に交じって繰り返される、聞き慣れた自分の名前さえ、ひどく特別なモノに聞こえる。その声を聞くたび、気が変になるのではないかと不安になるほど、身体が先をせく。
 こんな想いに身体を任せてしまったら、どれだけ残虐になってしまうか分からない。フォースは歯を食いしばり、必死にその強すぎる気持ちを押し殺した。それでも息苦しく吹きこぼれてしまう感情は、リディアには粗暴に感じるかもしれないと思う。
 身体の底から突き上げてくる気持ちを、リディアにできる限りそっと刻み込む。シャイア神の光が勢いを増して部屋いっぱいに広がった。
 周りの見えない目隠しのような虹色の光に怯えたのか、背を仰け反らせながら、しがみついてくるリディアを、ありったけの力を込めて抱きしめる。
 こうして抱きしめ合っている時に降臨を解くというのは、シャイア神の優しさであって欲しいとフォースは思う。心をもぎ取られ、離れていく不安だけなら、気が変になってしまうかもしれない。シャイア神はそれを分かっているから、存在を強く感じていられる時を選んで降臨を解くのだと思いたい。
 でも。シャイア神がこれ以上リディアを望んでも、妥協はしないと心に決める。この身体も、心も、リディアのすべてが自分のモノだ。絶対にカケラも渡さない。
 溢れる虹色の光が収まっても、フォースはしばらくそのままリディアを抱きしめていた。速かった呼吸が、少しずつ落ち着いていく。リディアの目が開くのを見て、リディアを覆っていた身体を横にずらし、肩を抱くように引き寄せる。
「シャイア神は?」
 フォースが顔をのぞき込むと、リディアは自分の中を探るように視線を動かした。
「いないみたい」
 その答えに、フォースはホッと息をつき、言いづらさに眉を寄せると再び口を開く。
「ええと。身体は? 大丈夫か?」
「……、大丈夫」
 恥ずかしげに目を伏せて、リディアが微笑む。
 その微笑みが、フォースの左腕に巻かれた媒体に向いた。そっと伸ばしたリディアの手が、媒体を解いていく。離れている時には二人の意識をつないでいてくれた。でもシャイア神がいない今は、すでに思い出の品でしかない。戦士の印としても意味はなくなっている。
 媒体の外れたその腕に、リディアの唇が触れた。微笑んだその唇を引き寄せてキスをする。唇が離れると、リディアはフワリと眠たげなまばたきをした。

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