レイシャルメモリー 3-9


「ティオ、来なかったわね」
「石の部屋を出る時、後で、って言ってたよ」
「どうしているかしら。ケンカしてなければいいけど」
 リディアの言葉でフォースは、ワアワア言い合っていた二人を思い出す。
「ねぇ? 後でって、もしかしたら……。ティオも妖精だし」
 言われてみればそうだとフォースは思った。妖精とは時間の感覚が違うのだ、一口に後と言っても、どれだけ後のことか分からない。
「あいつ、本気であの妖精を守っていくつもりなのかな」
「きっと、その方がいいわ」
 意外な言葉に、フォースはリディアをのぞき込んだ。リディアは苦笑する。
「だって、アルテーリアとヴェーナはいつか離れてしまうのだし、ティオにとってほんの少しの時間で、フォースも私も死んでしまうのよ?」
「そうか。そうだな。ヴェーナにいる方がいいか」
 そう言いながら、フォースは自分がこれから生きていられる期間に思いを巡らせた。いつまで生きていられるかは分からない。しかし、長く生きられたとしても数十年しかないのは間違いないのだ。せめてその間くらいは、ずっとリディアを見ていたいと思う。
「フォース?」
 リディアが不安そうな瞳を、考え込んでしまったフォースに向けてくる。
「俺はリディアを離さない。ずっと」
 フォースの言葉に、リディアは安心したように頬を緩ませた。
「嫌だって言われても、意地でも離さないかもしれない」
 フォースがそう言い足すと、リディアはクスクスと笑い声をたてる。冗談だと思われたのかと、フォースは眉を寄せてリディアの顔をのぞき込んだ。
「本気で言ったんだけど……」
 その言葉にも笑みを崩さず、リディアは視線を合わせてくる。
「私もフォースを離さない。タスリルさんみたいなおばあさんになっても」
「えっ?」
 フォースは思わずタスリルの深いシワを歪めた微笑みを思い出し、比較するようにまじまじとリディアの顔を見つめた。
「……まさか。ならねぇよ」
「分からないわよ?」
 真面目な顔でリディアに見つめ返され、フォースは苦笑した。
「それでもかまわない。望むところだ」
 リディアは微笑みを浮かべて安心したようにフフッと笑い、目を閉じて大きく息をつく。
「眠たそうだ。疲れたろ?」
 そう言って、フォースはリディアのまぶたにキスをした。
「おやすみ」
「おやすみなさい」

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