レイシャルメモリー 3-10


 リディアは薄く開けた瞳でそう返すと、フォースの肩口に頬を寄せた。
 これで本当に神と名の付くすべてから解放されたのだろう。神の目で見たら、これは解放ではなく、見捨てた、ということなのかもしれないが。
 フォースはリディアが眠ってからも、しばらくその寝顔を見つめていた。

   ***

「フォース? 起きて」
 リディアの声が聞こえ、身体を揺すられている。少し前から起こされていると、フォースは分かっていた。だが今は、耳元でその声を聞き、身体を寄せていることが心地よかった。
「ねぇ、フォースってば」
 昨晩リディアを初めて抱いた。降臨を解いたのだ。もしも何か変化があったらと怖かったが、声が元気そうで安心できた。
「もう日が高いの。ジェイさんかイージスさんが起こしにくるわ」
「起こされてから起きればいいって」
 目も開けず、寝ぼけた声で答える。
「でも……」
 フッと眠りに落ちるときの意識が遠くなる感覚があった。同時にタスリルの顔が目の前に浮かび上がる。フォースは思わず跳ねるように上体を起こした。目を丸くして見上げてくるリディアの顔に見入る。
「……、どうしたの?」
「い、いや。夢? を見たような」
 なんでタスリルが出てくるのかとため息をつき、自分が起きたせいで寝具がめくれていることに気付く。リディアの肌にシャイア神の光は見えず、ただ昨晩付けた赤い跡が残っている。リディアは恥ずかしげに腕で胸を覆った。
「身体は変わりないか? 女神がいなくなって。と、……、おなか」
 フォースはリディアの肩口にひじを付き、ほんのり上気した顔と、真上から向き合った。
「大丈夫」
 リディアは自分の身体の様子を見ることもせずに即答した。その微笑みに安心する。
「よかった」
 フォースはリディアに口づけると、そっと腕をどけ、残っている赤い跡にもキスをした。
 ドアにノックの音がした。お互い息を飲んで見つめ合い、苦笑を漏らす。
「ジェイストークです。レイクス様、お食事の準備ができております」
「え? まだなんにも着、あ」
 フォースは慌てて口を手でふさぎ、クスクスと笑っているリディアに苦笑した。
「い、いや、なんでもない、すぐ用意する」
「では、こちらで待たせていただきます。食事のあとで陛下にご面会をお願いします」
「了解」
 フォースは思わずそう返事をし、軽く吹き出したジェイストークに、ドア越しに舌を出した。

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