レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
第3部5章 創世の末葉
4. 道標の先 01


「そういえば、あちらからの親書は存在するのですか?」
 食事のための部屋から謁見の間に移動する途中、前に立って歩くジェイストークがフォースに尋ねてきた。
「あるよ。持ってる」
 そう返事をすると、フォースはやや後ろを付いてくるリディアに視線を向けた。足元を見ながら歩いていたリディアが、いくぶん硬い表情を上げる。フォースは、微笑みを浮かべたリディアに笑みを返すと、その手を取って引いた。
「でもよく無事で持ってましたね。あの状況の中で」
 振り向かずに話すジェイストークに、フォースは少し足を速めて追いつく。
「先にやらなきゃならないのは分かってたからな。鎧に細工しておいたんだ」
「え? 上半分着けてなかったじゃないですか」
 ジェイストークはそう言うとチラッと振り返る。フォースとリディアがつないだ手に目が行ったのか、サッサと視線を前に戻した。
「一体どこに?」
「いや、だから下半分に。上は結構壊すから」
 フォースは鎧の一部を二重に作ってあることは口にしなかった。もしかしたらその細工をした鎧職人が、同じ手を使うかもしれない。ジェイストークのことだから、そこまで聞いて探し出すのは容易だろうとは思うが、その時のために少しでも細かな言及は避けたかった。
「結構壊すって。これからは危険なことには首を突っ込まないでくださいね」
 追求されるだろうかと思ったが、ジェイストークが発したのは忠告だった。フォースは思わず苦笑する。
 クロフォードの私室のドアを、フォースは覚えていた。ドアの前に立っているイージスが、こちらに気付き頭を下げる。
 ドアの前まで来ると、気を落ち着けるようにひとつ息をし、ジェイストークはドアをノックした。
「レイクス様とリディア様をお連れいたしました」
 あまり間を空けずにドアが開かれた。そこにのぞいた顔はアルトスだ。
「大丈夫なのか? 怪我は?」
 フォースは思わずそう問いかけた。アルトスはかしこまって頭を下げる。
「いくつか、かすり傷があった程度です」
 そのかすり傷という言葉に、ホッと息をつく。
「ティオがアルトスごと庇ってくれたからか。にしても、よくそれだけで」
「早く入ってこんか」
 部屋の奥からかけられたクロフォードの声に、アルトスはわずかな笑みを浮かべて身体を引いた。フォースがリディアの手を引いたまま部屋に入ると、ジェイストークは廊下に残り、アルトスが中を見張る格好でドアが閉じられる。
 まず年老いた神官が一人立っているのが目に入ってきた。その向こう側のソファにクロフォードが座っていて、後ろにレクタードとリオーネ、ニーニアが立っている。部屋にあまり人を入れなかったクロフォードの態度がずいぶん軟化していると、フォースは大きな変化を感じた。

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