レイシャルメモリー 4-02


 フォースと目が合うと、クロフォードは立ち上がり、フォースに歩み寄ってきた。その間に神官がフォースに向かって眉を寄せ、口を開く。
「レイクス様もお人が悪い。影のことを知った時点で教えてくだされば、対処のしようもあったでしょうに」
「無いよ。事実を知ってしまった人間から危険にさらされる。側にいたならなおさら、うわっ?!」
 いきなりクロフォードに抱きつかれ、フォースは息を詰めた。リディアの手が離れ、振り向こうとしたが動けない。
「ちょっ……」
「よく無事に帰ってくれた。しかも、影も払拭してくれた」
 子供として扱われる恥ずかしさに、顔が上気する。フォースはクロフォードの胸を押し返した。
「そっ、それは力を貸してくれた人たちがいたからで、俺は……」
 クロフォードは、少し離れたフォースの顔をのぞき込む。
「本当に無事でよかっ……、なんだ、顔が赤いぞ? 照れてるのか?」
「ち、違っ」
 首を横に振ると、なおさら顔が赤くなった気がして、フォースは黙り込んだ。フォースと離れると、クロフォードはリディアに視線を向ける。
「そなたがリディア殿か」
「はい。陛下」
 リディアは頬をいくぶん上気させ、ていねいにお辞儀をした。顔を上げたリディアに、クロフォードが笑みを向ける。
「これはまたずいぶん……。レイクスが必死になるわけだ」
 なんでも好きに言えばいいと思い、フォースはため息をついた。リディアが困ったように向けてくる視線に苦笑を返す。
「色々とレイクスを助けてくれたようだね。礼を言う」
「いえ。私はただ、したいようにしていただけですから」
 あたたかな笑みを浮かべているリオーネのドレスをしっかりつかみ、ニーニアが目を丸くしてリディアを見ている。同じようにリディアに見入っていた神官の口から、はあ、と肩の落ちるほどのため息が漏れた。クロフォードが神官に向き直る。
「闇が空に立ちのぼる様を見られているのだ、シェイド神が降臨を解かれたことは既に民衆にも広まっているのだろう?」
「はい。あれだけ大きな異変です、不安を抱えた民衆が多く神殿に押しかけています」
 神官はかしこまって答えた。クロフォードは一瞬だけフォースに視線を向けると口を開く。
「エレンが神の守護者という一族で、レイクスが戦士という位置にあったこと。マクヴァルが呪術を使い、シェイド神を身体に閉じこめていたこと。そしてそれがすべて解決されたこと。事実をそのまま伝えればよい。むしろ喜ばしいことが起こったのだし、隠すと後々面倒になる」

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