レイシャルメモリー 4-03


「それはそうなのですが、神官長の選出が……。シェイド神という軸が消えてしまい、一体神官は何をすればいいモノやら、誰もが見当を付けられずにおります」
 神官にうなずいたクロフォードを見て、フォースはため息がでそうになるのをグッとこらえた。
 マクヴァルはずいぶん長い間、神官長をしてきたと聞く。その地位が当たり前だとされていた人物が消えたのだ、混乱は起こって然るべきだろう。その上、変わるのは神官長だけではない。神が降臨しなくなった今、宗教自体も変わっていかざるをえない。
「どうもこうも、誰かにやってもらう以外にない。誰に決まろうとも、神官長一人でどうにかできるはずもないのだから、少しずつ状況を見ながら変えていくしかないだろう」
 クロフォードの言葉に年老いた神官は、再び力の抜けたような息を吐き出した。
「では、もう一度神殿で話し合いを持ってみます。民衆への対応は仰せの通りに」
 深く頭を下げると、神官は部屋を出て行った。アルトスも一緒に退室し、フォースにとっては皇帝の一家に混ざっているような、違和感のある空気に包まれる。
 それでもフォースは安堵していた。事実そのままを伝えてくれるなら、神の子という習わしも無くなるはずだ。これでニーニアを傷付けなくて済む。
 フォースはメナウルの皇帝ディエントからの親書を取りだし、クロフォードに差し出した。
「メナウル皇帝からの親書です」
 大きくうなずき、クロフォードは親書を受け取る。
「座っていろ」
 そう言い残すと、クロフォードは隣の部屋へと入っていった。
 リオーネが、どうぞ、とソファを指し示す。フォースはリディアの手を取って、指示された場所に腰を下ろした。
 フォースがまっすぐ前、ソファの向こう側にいるニーニアに目を向けると、少し不機嫌そうな顔と視線が合った。ニーニアはその視線をリディアの胸の辺りに向ける。その様子を見て、レクタードがニーニアをのぞき込んだ。
「ニーニア?」
「……、大きい」
 ニーニアがレクタードに向けた言葉に、フォースは吹き出した。リディアはわけが分からずキョトンとしている。レクタードが慌ててニーニアと向き合った。
「に、ニーニアねぇ、そういうことは……」
「だって……」
 少し頬を膨らませたニーニアに、リオーネが苦笑した。
「ニーニア? あなたはまだ八歳なのですから。背丈なんて少しずつちゃんと大きくなりますよ」
 その言葉に、フォースとレクタードは思わず視線を交わす。ニーニアは、話しが違うとハッキリ言えずにリオーネに抱きつき、ドレスに顔を埋めた。
「さぁ、お茶を入れてきましょうね」

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