レイシャルメモリー 4-04


 ハッとして立ち上がりかけたリディアを、リオーネは、どうぞ座っていらして、と笑顔で制する。リオーネはリディアのお辞儀を見るとニーニアの手を引き、クロフォードが入った部屋と反対側にあるドアの向こうに消えていった。レクタードがフォースの向かい側に腰を落ち着ける。
「久しぶり、なんて気楽に挨拶しちゃまずいかな」
「そんなことない」
 フォースが笑みを向けると、レクタードは安心したようにフッと息で笑った。
「リディアさんとはホントに久しぶりだけど」
 レクタードはそう言って肩をすくめる。
「え? 会ったことが?」
 フォースの問いに、リディアはうなずく。
「ええ。スティアに紹介された時に、一度だけ」
「そういえばそんなことを言ってたっけ。異様に頭に来たのを思い出した」
 その言葉に、レクタードの表情が凍り付いた。その顔を見てフォースは苦笑する。
「ああ、ゴメン。それも今なら全部笑い話にできるなって思って」
 レクタードは、背中が丸くなるほど思い切り息を吐ききった。
「おどかすな。ホッとしたよ。でも本当に二人とも無事でよかった」
 レクタードの微笑みに、フォースは真剣な表情になる。
「だけど、アルトスやジェイがいなかったら、どうなっていたことか」
「いや、フォースを助けられたら本望なんじゃないかな。彼ら、エレン様に仕えていたんだし」
「そうなのか?」
 フォースが目を向けると、レクタードは少し眉を寄せた。
「あ、言ってなかったのか。二人共だよ。しかもエレンさんとフォースがさらわれた時、アルトスがその場にいたらしくてね。それでその怒りや悔しさから強くなったんじゃないかって、何かにつけて噂が流れてたんだ」
 その言葉にフォースは、ふと自分の過去を思った。
 母であるエレンがドナの村で殺された時に剣を取った。戦に直接関わるために。自分の大切なモノを守っていけるだけ強くなるために。エレンが残した、強くなりなさい、誰も恨んではいけない、という言葉を前提にだ。
 アルトスと剣を合わせた時に伝わってくる、あの冷静でいて熱い思いは、確かに怒りかもしれない。その熱さの原点が自分と同じだとしたら、エレンへの想いもたぶん一緒なのだろう。誰も恨んではいけない、というその言葉が無かった分、後を引く辛い思いを断ち切るのは難しかっただろうと思う。
 エレンを殺したカイラムの息子カイリーにドナで会った時、無条件でその剣を引いてくれたのは、アルトスが誰よりもフォースの辛さや悲しみを理解してくれていたからなのかもしれない。
 考え込んでしまったフォースを心配したのか、リディアの手がフォースの腕に触れた。フォースはリディアに笑みを向け、その手を握りしめる。
「そうそう、なんだか気付いていないみたいだから言うけど」

4-05へ


前ページ 章目次 シリーズ目次 TOP