レイシャルメモリー 4-05


 レクタードは肩をすくめ、イタズラな笑みを浮かべた。
「闇が空に立ちのぼったその日に、虹色の光も天に昇っていったからね。事の顛末を知れば、あの時フォースとリディアさんが何をしていたのか、民衆にまで丸分かりなんだ」
 レクタードの言葉に、フォースは驚きで目を丸くした。リディアは耳まで真っ赤にして片手で口元を覆う。
「ジェイから報告も受けてたしね。父上が空に登っていく虹色の光を見ながら感慨深そうな顔してて、なにか可笑しかったよ」
「……ったく、なんの報告してんだ」
 フォースはそうつぶやくと、ノドの奥で笑い声をたてる。
「まぁでも、手っ取り早く分かってくれてるってことだ」
 フォースはリディアに微笑みを向けた。リディアはほんの少し目を合わせると、またうつむいてしまう。
「心配いらない。リディアは側にいてくれるだけでいい。必要なことは俺が全部話すから」
 フォースの言葉を聞いて、リディアはうつむいたまま恥ずかしげに微笑んでうなずいた。
 部屋のドアからクロフォードが戻ってきた。立ち上がろうとしたフォースとリディアを手で制すると、リディアの向かい側に落ち着く。
「レイクスがメナウルの皇帝から、並々ならぬ信頼を得ていることがよく分かったよ」
 クロフォードはそう言うと、フォースに満面の笑みを向けた。
「近いうちに休戦協定を結べそうだ」
「本当ですか?!」
 相好を崩したレクタードに、クロフォードは大きくうなずく。
「しかも、皇女の婚嫁にも合意してくれている」
 フォースは顔を上げたリディアと笑みを交わした。クロフォードはいくぶん難しげな表情のままフォースに向き直る。
「だが、レイクスにはまたメナウルに足を運んでもらわねばならん」
「かまいません。何度でも行ってまいります」
 フォースは笑顔のまま、すぐにそう返した。クロフォードはそれを見て苦笑する。
「あまり嬉しそうに言われると、また複雑なんだが」
「あ、いえ。メナウルへ行けるからではなく、この手で戦をやめさせることができると思うと」
 フォースの言葉に、クロフォードの頬がいくらか緩んだ。その頬を、クロフォードは再び引き締める。
「実は、レイクスにはルジェナ・ラジェス領を統治して欲しいのだよ」
「統治? ですか?」
 いきなりの言葉に、フォースは狼狽の色を隠せなかった。そのまま受け入れるには、解せないこともたくさんある。
「あそこは確かタウディ殿が」
 その名前を聞き、レクタードがフォースに向かって眉を寄せる。
「フォースがメナウルに行っている間に、伯父を拘束して領地も剥奪したんだ。ああ何度もだと、さすがに見逃すわけにはいかなくて」
「現在は仮の領主を立ててある。お前はあの辺りでは名も知れているし、国境付近にいてくれることでメナウルとの関係緩和も期待できる」

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