レイシャルメモリー 4-06


 確かにメナウルとの交渉ごとには役に立てるかもしれないとフォースは思った。だが、それだけではどうにもならない。
「しかし、統治など。まるきり何も知らない状態では」
「いきなりすべてをやれとは言わない。補助役も相談役も付ける。追々覚えてくれたらいい」
 昨晩はジェイストークに、皇帝の跡を継げとうるさく言われた。それよりはクロフォード本人の方が態度が穏やかだ。ホッとはしたが、どこか疑わしくもある。
「それでお役に立てるのでしたら、そうさせてください。ルジェナに住めるのならメナウルに近いですから、リディアも安心できるでしょうし」
「まぁ、いつまでも領主というわけにはいかないがな」
 そう言って浮かべた苦笑で、クロフォードはジェイストークと同じく自分を皇帝にしようと考えているのだろうとフォースには想像がついた。やはり、あきらめてはいなかったのだ。
「私は根本からメナウルの人間だということを、父上は分かってくださったのだとばかり思っていたのですが」
 フォースがため息混じりに言った言葉に、クロフォードはまっすぐな視線を向けてくる。
「言ったではないか。お前はエレンが残してくれた私の息子だ。何をどう考えようと、どんな行動を起こそうと、それは変わらん」
「しかし。皇帝を継ぐのにレクタードは申し分なく」
 フォースはレクタードにも視線を向けたが、レクタードはわずかに笑みを浮かべただけで何も言おうとはしなかった。同じくレクタードをチラッとだけ見やり、クロフォードはフォースに向き直る。
「いや、デリックのこともあるし、リオーネがエレンの拉致に関わってしまっているのも事実なのだ。それを責めようという気持ちはないが、あまりにも大きいのだよ」
「リオーネ様のことは、公にしなければそれで」
 そう言ったフォースに、クロフォードは表情を引き締めた。
「隠し事があってはならんのだ。あとでどう跳ね返ってくるか分からん。リオーネを守るためにも、公にしてしまうことは必要だ」
 確かに、事実を知ったあとにレクタードが皇帝になっても何ら問題はないが、逆にレクタードが皇帝になってから事実が知れてしまったら、騒ぎは大きくなるだろう。
「それに、お前はシャイア神と一緒に影からライザナルを救った英雄なのだよ」
 その言葉に反論できず、フォースは口をつぐんだ。だが、これから世界は変わるのだ、いつまで英雄でいられるかは分からないとフォースは思う。
「継承のことは、今すぐどちらと決めんでもいいと思っている。だが長子はお前だ。特に国民には知らせず、皇位継承権一位のままで通しておく」
 クロフォードはそこで一度大きくうなずき、さらに口を開く。
「今回領地を治めてもらうのも、実地訓練だとでも思ってくれたらいい。それでよいな?」

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