レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
第3部6章 胎動の大地
1. 解放 01


「今回は正式な外務になります。そのあいだリディア様はルジェナに滞在された方がよろしいかと」
「駄目」
 後ろから付いてくるアルトスに、フォースは振り向きもせず、そう返事をした。自分の腕を取って歩いているリディアに笑みを向ける。
「駄目、ですか?」
 前を歩いているジェイストークが、そのまま言葉を返してくる。
「リディアの父親に結婚の了承を得なければならないんだ。本人がいないと話しにならない」
 その言葉に、リディアの手に少しだけ力がこもった。ジェイストークは振り向きかけた顔を前に向けると、フォースの私室のドアを開け、ドアを通るフォースに声を掛けてくる。
「反対されたらどうするんですか?」
「もう反対されてる。だから改めて反対されても別に何も変わらない。また間を置いて許してもらいに行くだけだ」
 その言葉にジェイストークは力の抜けた笑みを浮かべ、フォースとリディアを中に入れた。アルトスも部屋に通す。
 部屋の中では、ソーンがフォースを待っていた。嬉しそうに目を細める。
「レイクス様!」
 ソーンは駆け寄ってきて、フォースに抱きついた。フォースはソーンの髪をくしゃっと撫でる。
「ソーン! 元気そうでよかった。留守を守ってくれていたんだってな。ありがとう」
 フォースは赤面したソーンの肩に手を置き、自分の後ろから入室したリディアに笑みを向ける。
「リディア、ソーンだよ。タスリルさんとこの」
 リディアは微笑んでうなずくと、ソーンと向き合って軽いお辞儀をした。
「ソーン君、はじめまして」
 ソーンはハッとしたように勢いよく頭を下げる。
「はっ、はじめまして! 僕もルジェナに行きますっ、よろしくお願いします!」
 そう言ってから顔を上げたが、まっすぐリディアに視線を返せず、視線がさまよっている。照れているのかとフォースが顔をのぞき込むと、ソーンは困惑した顔で見上げてきた。
「レイクス様の目でなくても、リディア様はすごく綺麗に見えますっ」
「は? なに言ってるんだ?」
 フォースはわけが分からず、ソーンの顔に見入る。部屋にイージスが女性二人を連れて入ってきたのが視界の隅に映った。
「レイクス様、誰だって好きな人のことはキレイで可愛く見えるモノだって言ったじゃないですか。だから綺麗じゃないとかブスだとか思ってたのに」
 だから心の準備ができていなかったと言いたいのだろうと、フォースはソーンの気持ちを察した。だが、それを見過ごせば角が立つ。
「それ、その時に否定しただろ」
「ええー? そうでしたっけ?」
 不服そうな声に、イージスが笑みを向けた。
「ソーン、レイクス様は否定なさいましたよ。あの後すぐにシェイド神の力で攻撃を受けられたので、うやむやになってしまいましたが」

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