レイシャルメモリー 1-02


 その言葉に、ソーンは顔を赤くしてうつむく。フォースはノドの奥で笑い声をたてると、ソーンの耳元に口を寄せた。
「ソーンの目にどんなに綺麗に見えても、リディアは俺のだ」
 ソーンはそれを聞いて目を丸くする。
「わ、分かってますっ。そんなこと、みんな知ってますから!」
「え? まさか、ソーンまであの話しを聞いたのか?」
 フォースはレクタードの、虹色の光も天に昇っていった、という言葉を思い出して言った。ソーンは興味深そうな顔になる。
「レイクス様、あの話しってなんですか?」
 フォースは乾いた笑いを浮かべ、何も言えずに口をつぐんだ。イージスが柔らかな微笑みをソーンに向ける。
「ソーン、レイクス様と大切なお話がありますので」
 はい、と返事をすると、ソーンはおとなしくドアの側、アルトスの隣に立った。フォースはホッとしつつもいくらか緊張してイージスを見やる。
「婚儀にご着用いただく式服のための採寸をするようにとの指示を承っております」
「ずいぶん早いな」
 思わずそう返したフォースに、イージスは苦笑した。
「仕立てる時間をいただきませんと。特に式服は形ができあがったあとにも、金糸銀糸での刺繍や石を縫いつけたりと様々な作業がありますので」
「リディアのは頼むよ。俺はなんでもいい」
 リディアをイージスにまかせながら言ったフォースの言葉に、アルトスが冷たい視線を向ける。
「釣り合いを考えろ」
「じゃあ甲冑でいい」
「おま……」
 アルトスは慌てて言葉を切り、そっぽを向く。二つめの寝室に入っていくリディアとイージス、採寸に来た女性二人を見送りながら、フォースはノドの奥で笑い声をたてた。
「それでいい。ていねいな雰囲気だけでも気味が悪いのに、レイクス様なんて呼ばれたら全身が痒くなりそうだ」
 フォースは跳ね返りそうな勢いでソファに身体を預ける。
「しかし、レイクス様は継承権一位の王族でございます」
 わざわざ名を呼んで返したアルトスの顔が、半分笑っている。フォースはソーンを側に呼び寄せて隣に座らせ、苦々しげにアルトスを見上げた。
「俺のことはお前と呼べ。せめて同等に接しろ。これは命令だ」
「御意」
 そのアルトスの返事を横目で見やり、フォースはため息をついた。心配げに見上げてくるソーンに苦笑を返す。
 アルトスは自分が嫌がっているのを分かっていて、ていねいな対応をしているのだろう。側に立っているジェイストークも、微笑んでいるというよりは笑いをこらえているという顔だ。放っておけばアルトスの態度は元に戻りそうだとフォースは思った。
「そういえば、ルジェナに立ててある仮の領主って誰なんだ? 初めてここに来たときにやった披露目の宴には来てたのか?」

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