レイシャルメモリー 1-03
「いえ。なにより高齢ですし、国境付近に住んでいますので、移動は避けたのです。お呼びしたかったんですけどね」
ジェイストークはそう言うと肩をすくめた。
「陛下は補助役とか相談役とかおっしゃっていましたが、少ない人数ではありませんので、名簿ができ次第お持ちします」
「頼むよ」
知らない人間のことを今聞いても仕方がない。実際会ってからでも問題ないから、説明されないのだろうと思う。だがやはり先に聞きたいことはある。
「ジェイは来るのか?」
「はい。あの、それでですね、父のことなのですが、できましたら一緒に……」
珍しく眉を寄せたジェイストークに、フォースは苦笑を返した。
「連れて行けばいいじゃないか。むしろ一緒に行ってくれた方が、俺も安心だよ」
ありがとうございます、とジェイストークは頭を下げた。顔を上げると気が緩んだような笑みをフォースに向けてくる。
「他にご一緒させていただくのは、イージス、テグゼル、ナルエスは決定しています。あ、もちろんソーンもです」
うちから通えるんだ、と言ったソーンに、フォースは微笑んで親指を立ててみせた。
「で、アルトスは?」
フォースが視線を向けると、アルトスはチラッとジェイストークを見てから口を開く。
「私はマクラーンに残る。まぁ、ルジェナとの間を往き来させられる立場ではあるが」
「え? 行くんじゃないのか?」
すぐにそう返したフォースに、アルトスは眉を寄せた。
「そのくらい分からないのでは、先が思いやられるな。私は前線にいたんだ。特に友好を進めなくてはならない今は、国境近いルジェナに滞在するわけにはいかない。邪魔になるだけだ」
アルトスは呆れたようにフッと鼻で笑うと、フォースから顔を背けた。フォースはその様子に肩をすくめる。
「そうか? むしろ俺に鼻で使われてた方が、友好になるだろ」
「なっ?!」
呆れたのか驚いたのか、アルトスは口を開けたまま呆然と視線を向けてきた。フォースが反応を返す前に、ジェイストークが声を抑えて笑い出す。
「一理あります。ありますってば」
腹を抱えた遠慮のない笑い方に、アルトスが不機嫌な視線を向けた。ジェイストークはかまわず笑い続けている。
「まぁでも、マクラーンにも人員は必要ですし、アルトスはどこででも顔が利きますから、移動の護衛に適任なのですよ。レイクス様は次期皇帝なのですから、どういった時にもある程度の人員を揃えなくてはいけませんし」
次期皇帝との言葉に、フォースは思わず顔をしかめた。それを見ていたのだろう、アルトスが控え目なため息をつく。
「陛下も仰せの通り、私もお前が適任だと確信している」
「その話しはいい。今何を話しても、状況は変わらない」
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