レイシャルメモリー 1-05
「俺は知らない間にガチガチに縛られていた。相手は神だ、母も同じようなモノだったと思う。これが運命だとでも言いたげに自然に、でも強引に」
その言葉に、アルトスは難しい顔つきで目を細めた。ジェイストークもいつもの笑みが消え、感情の見えない顔で床の隅に視線を向けている。
「それでも、母は幸せを感じていたと思うよ。実際、俺を心配そうに見る以外は、笑顔だったし。それに最後に言い残したのが、強くなりなさい、誰も恨んではいけない、だったんだ。それも斬られてすぐに斬った奴の目の前で、そう言えたんだから」
アルトスとジェイストークがチラッと視線を交わした。ジェイストークは大きく息を吐く。
「それでグレなかったんですか」
「はぁ? なんの話しだ」
虚を衝かれて見上げたジェイストークは、余裕の笑みを浮かべたいつもの顔に戻っている。
「いえ、不思議だったんですよ。レイクス様が、なぜ仇を取ろうとなさらなかったのかと。エレン様の遺命を守られたからだったのですね」
その言葉に、フォースの中でもう一本の糸が繋がった。
「ああ、そうか。あの時それを守らずに反抗していたら、きっとその場で斬り殺されていたのかもな……」
グスッと隣で鼻をすする音がした。その音に見下ろしたソーンの目から、ボロボロと涙がこぼれる。
「え? あ。ソーン? なにも泣くことは」
「だってレイクス様……」
泣きやみそうにないソーンの肩を抱き、フォースは苦笑した。
「全部昔のことだから」
「でも、可哀想だよ……」
「可哀想だなんて言ったら、ホントに可哀想みたいじゃないか。母も俺も、もう全然可哀想じゃないよ?」
ソーンの頭を撫でながら言うと、ソーンは涙の止まらない顔で見上げてくる。
「ホントに?」
「それとも、可哀想に見えるのか?」
ソーンは、フォースの向けた笑みを見つめ、うーん、と考え込んだのち、首を横に振る。
「見えない」
そうだろ、と言いながら、安心する自分が可笑しい。フォースはソーンを抱きしめ、背中をポンポンと叩いた。フォースの腕の中、ソーンは手の甲で涙を拭いている。
そこにアルトスが手を差し出した。
「顔を洗いに行くぞ」
素直にうなずいて立ち上がると、ソーンはアルトスの後について水場の方へと入っていく。アルトスの意外な行動を、フォースは思わず視線で追った。
「ほとんど話さないのですが、打ち解けてはいるんですよ」
ジェイストークの言葉に、フォースは、へぇ、と肩をすくめた。
不意にリディアが採寸していた部屋のドアが開いた。イージスが顔を出す。
「レイクス様、いらしていただけますか?」
「え? あ、いいけど」
なんだろうと思いながら席を立ち、フォースは部屋に入った。
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