レイシャルメモリー 1-07
「何か飲むでしょう?」
うなずいたフォースに笑みを向け、リディアは厨房へと入っていった。フォースはその後に付いていく。
「もう何がどこにあるのか覚えたのか?」
「何をするにしても、だいたい準備はできちゃってるの。カップが二つあって、ポットとお茶の葉があって、お湯まで沸いてる」
そう言いながら、リディアはお茶の葉をティーポットに入れている。
「それにしても、リディアは何から何までよく順応できるな。尊敬するよ」
後ろに立ったフォースの言葉に、リディアは笑顔を見せ、お湯をティーポットに注ぐ。
「違うの。私はただ、お姫様ごっこをしているだけ」
「ごっこって。これからずっとなんだけど」
フォースは思わず苦笑した。リディアはティーポットに蓋をすると、身体ごと振り返る。
「そうなのよね。そう思うと、子供のままでいるみたいで、なんだか変」
そう言って笑うと、リディアはまたティーポットへと向き直る。フォースは後ろからそっとリディアを抱きしめた。
「一生ままごとってのもな。全然子供じゃないし」
フォースはリディアの唇を引き寄せて、触れるだけのキスをした。恥ずかしげに一度うつむいてから、リディアは頬を上気させ、フォースを見上げてくる。
「少しずつ慣れるわ、きっと」
「そうだな。リディアのお姫様ごっこには勇気づけられてる」
フォースが笑みを持って言った言葉に、ええ? と不服そうな声をあげて向き直ったリディアを、もう一度、今度はきつく抱きしめる。息を飲んだリディアに、フォースは微笑みを向けた。
「リディアがいてくれてよかった」
すぐ側で見開かれていた瞳に笑みが戻ってくる。フォースはそのまぶたに、そして唇にキスを落とした。リディアが息苦しさについた息の隙間から、キスを深くしていく。
さまよったリディアの指先で、カチャッとカップが音を立てた。リディアがうつむくように離れる。
「リディア?」
唇を追いかけようとしたフォースの胸を、リディアの手が押しとどめた。
「待って。お茶が濃くなっちゃう」
「あ、そうか。忘れてた」
フォースの背に触れていたリディアの手がポットに伸び、フォースは腕を解いた。
「もう。どうしてここに居るのよ」
リディアは頬を上気させたままノドの奥で笑い声をたて、カップにお茶を注ぎ始める。
「ねぇ、この香り。濃くない?」
フォースはリディアの背中から、カップに注がれていくお茶をのぞき込む。
「平気平気」
リディアはフォースの返事に笑顔を返すと、もう一つのカップにもお茶を注いだ。
「楽しみね。ルジェナとヴァレス」
「ああ」
リディアは台の上に置いたトレイに、お茶の入ったカップを乗せる。
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