レイシャルメモリー 1-08


「城都も久しぶりだわ」
「そうだな」
 フォースは、ほんのりと赤味の残っているリディアの頬に、後ろからキスをした。リディア越しにお茶の乗ったトレイを手にすると、先に立って部屋へと戻る。
「スティアも早くレクタード様に会わせてあげたいわ」
 そうだね、と返事をしながらトレイをテーブルに置いてソファーに落ち着いた。後ろから付いてきたリディアは、フォースの隣に座る。
「住む場所は、どんなところなのかしら」
 リディアがお茶をフォースに手渡しながら聞いてきた。フォースはうなずいて口を開く。
「それなんだけど。見たことがないから一応聞いてみたんだ。王家が所有する中では、一番小さいって言ってたよ。申し訳ないとかなんとか」
「ホント? 嬉しい。振り返ればそこにいるってくらい小さいかもしれないわよね?」
「いや、どうだろうな」
 フォースは受け取ったお茶を一口飲むと、眉を寄せて答える。
「王家が所有する中では、ってのが、どうもな。その辺、俺たちの常識は通じないだろうから」
「常識……。マクラーン城も大きいけど、ここだけでも広いわよね」
 リディアは改めて部屋を見回した。その様子を見て苦笑すると、フォースはお茶をもう一口飲んでカップを置き、リディアの肩を抱き寄せた。
「仮の城主がいるわけだし、ジェイやソーンやイージスも一緒なんだから、それなりには大きいと思うよ」
「そうよね。凄く大きいかもしれないわよね……」
 つぶやくように言うと、リディアはうつむきがちに何か考えている。フォースが顔をのぞき込むと、笑みのあいまに不安そうな表情が見えた気がした。
「家が大きくても小さくても、ずっと側にいろよ。リディアにいてもらう場所くらいは、どんな部屋にでもある」
 リディアは一瞬だけ目を見張ってから微笑んでうなずき、ホッと息をつく。フォースは、リディアがカップに伸ばしかけた手を取った。
「え? お茶……」
「濃い。苦いよ」
 フォースはリディアに苦笑を向けた。
「だってフォース、二口飲んだわ?」
「俺は苦いの平気だし。ほら」
 フォースはリディアの肩に置いた手を引いて軽くキスをした。唇を離して息の掛かる距離で見つめると、リディアはキョトンとした顔で見つめ返してきた。
「まだ香りが残ってただろ」
「ええ。普通にお茶の香りが……」
「普通に?」
 フォースの笑みにつられるように、リディアが笑い出す。
「入れ替えるわね」
 立ち上がろうとしたその肩を押さえるように力を込め、フォースはリディアを引き留めた。
「後でいい」
「どうして?」
 フォースは腕の中にリディアを包み込んで口づけた。いきなりで驚いたのか、リディアのノドから、んぅ、と小さく声が漏れる。フォースはリディアの背を支えるように手を添え、身体に被さるように押し倒す。
「今入れても、飲む時には冷めてしまう」
 リディアは倒れた時に閉じた目を少しだけ開き、微かな笑みを浮かべる。誘うように薄く開かれた唇に、フォースは唇を合わせた。

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