レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
第3部6章 胎動の大地
2. 居城 01


 心地よく揺れる馬車の窓に、騎乗したアルトスが馬を寄せてくるのがフォースの目に入った。アルトスは中をのぞき込む。
「じきルジェナに、?」
 アルトスは、フォースの向かい側に座っていたソーンが窓の側に立ったのを見て言葉を切った。ソーンがアルトスに向かって腕でバツを作り、人差し指を口に当てたのだ。
 リディアがフォースの肩にもたれ、腕を抱きしめるように抱えて寝息を立てている。ソーンはリディアを起こさないように気を使ってくれたに違いなかった。小声で、ありがとう、とソーンに伝える。ソーンは嬉しそうに笑みを浮かべた。
「もうすぐルジェナに入ると言いたかったのだと思います」
 やはり小声で伝えてきたソーンに、フォースはうなずく。肩が揺れたかと顔をのぞいたが、リディアは変わらない寝息を繰り返している。
 馬車の揺れに弱くて眠たくなってしまうらしく、リディアは馬車にいる半分くらいの時間を眠って過ごしている。こうして寝顔を眺めていられることが嬉しかったし、いつもソーンが一緒に乗っているので、退屈にもならず快適だった。
 ただ、夜寝ていないのかと勘ぐられることが多くて閉口していた。そんなことすら、どうでもいいでは通じないらしい。だが、それさえ世継ぎがどうのと周りに言われることがない分、もしかしたら気分的に楽なのかもしれない。
 結婚からせつかれていたら、さぞや大変だろうと、フォースはサーディを思い浮かべて苦笑を漏らした。ソーンが声を潜めて笑ったことに気付き、顔を上げる。
「レイクス様、何を思いだして笑っているんですか」
 見られていたことに気付き、フォースはさらに苦笑した。
「いや。リディアがいてくれて、よかったと思って」
「僕も嬉しいです。レイクス様がお幸せそうで。レイクス様とルジェナで会えた時は、とても寂しそうでしたから」
 確かにソーンと再会した時は、リディアと最低な別れ方をして数日だったので、気持ちは最悪だった。精一杯虚勢を張ったが、ソーンにさえ元気がないと言われてしまった。
 その時とは気持ちがまるきり正反対だ。フォースはリディアの寝顔に笑みを向けた。
「レイクス様にはリディア様が、僕の目で見るよりも、もっと綺麗に見えてるんでしょうか」
 フォースにそう声をかけながら、ソーンの目はリディアを見つめている。
「どうかな。ソーンにどう見えてるのかは分からないからな」
 フォースの言葉に、ソーンは難しげな顔で考え込んだ。
「僕も好きなのかな」
「え」
 フォースは、思わずソーンの顔をマジマジと見つめる。
「だって、もっと綺麗な人なんて、見たこと無いですよ」
 赤面しそうなセリフを、逆に子供らしいと思う。これはこれで本人に向かって言えば、いい口説き文句になるだろう。
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