レイシャルメモリー 2-02
「でも、あるんだよね。もっと綺麗が」
「ええ?! レイクス様にリディア様より綺麗に見える人がいるだなんて」
ソーンの声にリディアがほんの少し眉を寄せ、うぅん、と声を漏らした。ソーンが慌てて自分の口をふさいでいる。
リディアは頬をフォースの肩にすりつけるように首を動かすと、大きく息をついてまた元の寝息を立て始めた。ソーンは安心したように息を吐き出す。
「こんなことリディア様に知れたら大変です」
「そうじゃない。前に見たときより綺麗だって、リディアを見るたび思うんだ」
キョトンとした眼で聞いていたソーンは、ホッとため息をついた。
「よかった。リディア様のことだったんですね。なんだかホッとしました」
「きっといつか、ソーンにもそんなふうに思える人ができると、?」
気が付くと、ソーンはニコニコと満面の笑みを浮かべてフォースを見ている。
「何?」
「一緒の馬車に乗っちゃって、僕、やっぱりお邪魔でしたよね」
何を言い出すのかと、フォースはソーンに苦笑を向けた。
「別にそんなことはないよ」
フォースは否定したが、ソーンは肩をすくめて申し訳なさそうな顔をする。
「実は、馬車の中で日除けのカーテンを閉めてラブシーンなんか展開されたら困るから、僕に一緒に乗れってジェイストーク様に言われたんです」
「……、ああ、そう」
ソーンの言葉に吹き出しかけ、フォースはようやくそれだけ返事をした。ジェイストークがそんなことまで心配しているのかと思うと妙に可笑しい。バラしちゃった、とソーンは頭を掻いている。
「いや、ソーンがいてくれてよかったよ」
だが、確かにソーンがいてくれた方が気が紛れていいのかもしれない。
「どうしてですか?」
ソーンが真剣に返してきた問いに、フォースは思わず口ごもる。
「いや、どうしてって……。あ、こうして話せるしさ、退屈しないでいいだろ」
フォースが浮かべた苦笑の意味が分からず、キョトンとしていたソーンが、あ、と窓の外に視線を移した。
「ルジェナの街が見えてきました。もうすぐ居城の敷地に入ります」
「え、居城? 見たことがあるのか?」
その言葉の響きに眉を寄せ、フォースは聞き返した。ソーンは首を横に振る。
「いいえ。門と門番の家は見たことがありますが、建物は見えないんです」
「城壁が高いのか?」
そう口にしている時、馬車の左手、建物の隙間からチラッと見えた防壁は、ヴァレスを囲う防壁よりも明らかに低い。
「それもありますけど。門から中をのぞいても、居城は見えませんでした」
「まさか、見えないほど敷地が広いとか……」
フォースの問いに、はい、とソーンが元気にうなずく。その声にリディアが少し眉を寄せる。フォースはリディアの寝顔と向き合った。
「リディア、もうすぐだよ。リディア?」
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