レイシャルメモリー 2-03


 リディアはゆっくりと目を開き、眠りから完全に覚めていない顔で、フォースを見上げてくる。
「もうすぐ?」
 うなずいたフォースを見て、リディアは窓の外に視線を向けた。先頭の馬車から次々と左の道へと入っていくのが目に入る。両脇には、ゆったりと間の空いた平屋建ての家々が並んでいた。
 その間が少し小さくなった辺りで、前方に門が見えてきた。その手前、左右に対照的な形の邸宅が建っている。
「あの二件が門番の家です」
 ソーンが指差した先には、周りの家より明らかに大きな家があった。その後方は防壁と繋がっているように見える。リディアは、門番? と聞き返し、キョトンとその邸宅を見ている。
 門扉が門番の手によって左右に大きく開かれた。いったん速度を抑えた馬車がその間を通り抜け、再び速度を増していく。両脇に木が植えられた並木道になっていて、降り注ぐ木漏れ日がチラチラと輝いている。
「レイクス様、リディア様、綺麗な道ですね。あ、川が見える!」
 夢中になって窓の外を見ているソーンの言葉に、フォースはリディアと視線を交わすと、身体を窓に寄せて前方を眺めた。左側の並木が切れた向こうに水面が見える。道はそれなりの幅のある川にぶつかり、大きく右に曲がった。左手前方に石橋が見えてくる。
 国境に近いのにイヤにのどかだと思ったが、門を越えて攻め入るにはこの川は邪魔になる。主になる侵入経路が石橋だけなら守る方の戦略は立てやすい。フォースはこの居城を守るため、逆に攻め入る方法を頭の中で考えていた。
 その石橋を通ると、双塔の城門がある城壁らしい壁が見えてきた。見えている限りは堀で取り囲まれていて、やはり水が張ってある。土地があるだけに、防御する施設は限りなく作ることができたのだろう。
 跳ね橋が降りる音が聞こえてきた。すぐに先頭の馬車がその橋を通って行く。ここを馬車で通れるのだから中はまだ広そうだとフォースは思った。
 その門の内側に、フォースは目を見張った。堀どころの話しではない、大きな湖になっているのだ。見回してみて、双塔の城門がある場所自体がすでに島のようになっていることに初めて気付く。
 そこからまっすぐな橋でつながれた湖の真ん中には、居城の外壁と数本の尖塔が見えている。他に、低い壁に囲まれ、居城から一定の距離を置いて浮かぶ大きな島が二つ見え、それぞれが橋で繋がっていた。
 城への道は真ん中の橋以外、迷路のようにも見える。攻め入る算段など、誰もが一瞬で放棄したくなるだろう。
「凄いわ。綺麗……」
 城への橋の上で、リディアがやっとそれだけ口にした。ソーンはまだポカンと大きく口を開けたまま固まっている。
「いったいどこを限定して一番小さいなんて言ったんだ」
 思わずボソッとつぶやき、ため息をつく。これでは私設の軍くらいなら敵にもならないだろう。攻めてやると言っていたウィンのことを、逆に哀れにすら思う。

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