レイシャルメモリー 2-04


 もう一つの跳ね橋を通って外壁の中に入ると内外壁があり、その門をくぐるとようやく居城が姿を現した。
 白っぽい石でできている壁に、日の光が反射して美しい。建物の高さはないが幾本かの尖塔があり、いくらかマクラーン城に似ている。尖塔が多い部分は、神殿なのだろう。
 内外壁に囲まれてはいるが、内外壁までの際まで手入れされた庭が広がっていて、ゆったりと建てられているように見えた。
 馬車が城館の前、出迎えの人々が列を作った端で止められた。アルトスの手によって馬車の扉が開けられる。フォースは先に降りて振り返り、リディアの手を取った。
「お前が従者に見えるぞ」
「かまわない」
 頭を下げたまま言ったアルトスの言葉にそう返し、フォースは深くお辞儀をした人々の前を城館入り口へと向かう。ソーンは後ろから遠慮がちに付いてきた。
 入り口の扉が開かれると、その正面に黒いローブを着た背の低い人が立っていた。思い切り場違いな雰囲気だが、なぜかその場所に溶け込んでいる。顔に刻まれた深いシワが、笑みを形作った。
「二人とも、元気そうだねぇ」
「たっ、タスリルさんっ?! なんでここに?」
 盛大に驚いてしまってから、フォースは自分の大声を止めるように、手で口を覆った。あ、ばあちゃん、と後ろからソーンの小声が耳に届く。フォースは気を落ち着けるように一息ついて、再び口を開いた。
「も、もしかしてタスリルさんが、仮の領主……」
「そうだよ? おかしいかい?」
 いえ、とフォースは慌てて首を振り、リディアと視線を合わせた。リディアはフォースに微笑んでみせると、タスリルの所へ足を進めて笑顔で抱き合う。
「お元気そうで、なによりです」
「お前さんもね。本当によかった」
 タスリルの手が、リディアの背中をポンポンと優しく叩く。
「レイクスもせっかちだね。もう降臨解いちまったのかい」
「は? いえ、でも、……、はい」
 言い訳を一つも言えず、結局フォースはうなずいた。半分降臨が解けた状態じゃなくても、きっとリディアを抱いていただろうと思う。リディアが頬を染めたのを見て、タスリルは、ヒヒッ、と短く笑った。
「いや、事情は聞いてるよ。素直だね、褒めてあげるよ」
 褒めてなど欲しくないと思いながら、フォースはソーンを振り返った。こっちへ来いと手招きをする。
「挨拶だ」
「はい!」
 ソーンは嬉しそうに返事をすると、タスリルの前まで進んだ。
「ばあちゃん」
 満面の笑みを浮かべて言ったソーンの髪を、タスリルはクシャクシャと撫でる。
「ソーン、大きくなったねぇ」
「うんっ。ばあちゃんも、ここでお仕事?」
「そうだよ」

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