レイシャルメモリー 2-05


 タスリルとソーンを見ていたフォースの側に、リディアが戻ってきた。リディアが後ろに逸らした視線を追って、ジェイストークが近づいてくることに気付く。
「タスリルさんならタスリルさんだと、教えてくれればよかったのに」
 フォースはジェイストークに苦笑を向けた。
「ここで知っていただいた方が、面白いかと思いまして」
 笑みを浮かべたままのジェイストークに冷笑を向けながら、フォースは驚いてしまった自分を腹立たしく感じる。
「メナウルでの予定や、挙式のこと、これからこちらでやっていただくことなどお話があります。どうぞこちらへ」
 そう言うとジェイストークはフォースを城の奥へと促した。タスリルはジェイストークを引き留めると、ソーンとリディアを呼び寄せる。
「二人で探検しておいで」
「しかしまだイージスが来ておりません」
 入り口を気にしつつ言ったジェイストークに、タスリルは、大丈夫、と笑みを浮かべた。
「使用人の一人一人まで厳選してある。術まで使ってね。城の人間だと知れる前に、少しでも接しておくといいよ。後々役に立つ」
 はい、と嬉しそうに返事をして、ソーンはリディアに視線を向ける。
「リディア様、行きましょう」
「でも、……」
 フォースを振り返ったリディアに、タスリルはノドの奥で笑い声をたてた。
「レイクスは瞳の色でバレちまうからね、二人で行っておいで。その間にメナウルに入国する日時を決めて、向こうに最終的な報告をしておくよ」

   ***

 いつヴァレスに行けるのかは気になったが、後でフォースに聞いてみればいい。そう思い、リディアはタスリルの言うことを聞いて、ソーンと二人で城の中を見て回っていた。
 外観の豪華さだけではなく、城内も絵画や壁画、金糸銀糸が織り込まれた壁の布地などの装飾で溢れ、どの部屋でも目を見張ってしまう。足を止めてじっくり眺めたいモノもあったが、ソーンが先を急くのでリディアはその後を追いかけるようについていった。
「そんなに急いだら、戻る道が分からなくなっちゃうわ」
「迷子になったら人に聞けばいいです」
 ソーンはそう返してきたが、まだ一人として人に会ってはいない。聞こうにも聞く人間がいないのだ。
「ソーン、待って」
「リディア様、早く」
 ソーンは左手にあるドアを開けた。そのままそこに立ちすくむ。
「ソーン?」
 追いついてドアの中をのぞくと、三人の女性が掃除をしているところだった。寝室のようだ。ドアに一番近いところで棚を拭いていた女性が顔を上げた。
「おや! ソーンじゃないか!」
「おばさん!」
 側まで行ったソーンを抱きしめ、その女性はソーンの頭をグリグリと撫でた。
「元気だったかい?」
「全然元気だよ!」
「いい服着てるじゃないか」

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