レイシャルメモリー 2-08
フォースの言葉に、息をついてうつむいたままだった女性が、丸くした目をフォースに向けた。その顔が可笑しくて、リディアは笑いを飲み込んでから顔を上げる。
「それは嫌。巫女の部屋みたい」
「やっぱり駄目? って、それはまだ頼んでないけど……」
心配なのか不満なのか、眉を寄せたフォースに、リディアは笑みを向けた。
「鍵をかけて、その鍵を預かって。それなら嫌じゃないし、私も安心だわ」
「ホントに? じゃあ、そうさせて」
パッと明るい顔になったフォースに、後ろからジェイストークが、レイクス様、と声をかける。
「ドアをふさいでしまっては、イージスが入れません」
「あ。そうか」
そのやりとりを、掃除の女性がにこやかに見ていることが、リディアには嬉しかった。少しは緊張がほぐれたのではないか、いい印象を持ってくれたのではないかとホッとする。
「ここで見ていたら搬入の作業がしづらいだろうから、城内でも回ってこよう」
リディアが、はい、と返事をすると、ソーンが目を輝かせて部屋をのぞき込んできた。ジェイストークが苦笑を向ける。
「ソーンはここで立ち会わなくてはなりません。どこに何があるか、しっかり覚えてください」
ソーンは一瞬不機嫌な顔になったが、わかりました、としっかり返事をした。フォースがソーンに笑みを向ける。
「どうせ一度に全部は無理だ。時間ができたら三人で見て回ろうな」
「はい、レイクス様」
元気よく返事を返したソーンにうなずき、フォースはリディアの方に手を伸ばした。その手を取り、リディアはもう片方の手でソーンに、あとでね、と手を振る。
そのまま部屋を出た。ジェイストークが何か指示をしているのが後ろから聞こえる。気になって振り返ると、フォースに手を引かれた。
「その場にいたら、気を使わせてしまうらしい。まかせた方がいいよ」
はい、と返事をして、リディアはフォースと指をからめた。そのまま歩を進める。
「どこに行くの?」
「とりあえず上かな。奥にも階段があるからそこからあがろう。眺めがいいそうだし」
湖の真ん中にある城だ。一番上から周りを見たら、今まで眺めたことのない景色が広がっているだろうと思う。
「どこから行けるの?」
「この辺にあるはずなんだけど」
歩きながら二人で階段のありそうな場所に視線を巡らせる。
「あそこの、へこんだところか? 結構あるな」
フォースの呆れたような声に、リディアは苦笑した。
「どこが小さいのかしらね」
「見取り図を見せてもらったんだけど、何気なく載ってる一つ一つの部屋がでかいんだよな。天井も高いし」
言われて上を見上げる。天井は神殿の講堂のように高く、両脇には大きな照明器具が、一定の距離を置いて並んでいる。前方に戻した視界に、ようやく階段が見えてきた。
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