レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
第3部6章 胎動の大地
3. 立脚 01


 ルジェナを発ったのは朝方だった。フォースとリディアの馬車には、いつも通りソーンともう一人、ジェイストークが乗っていた。
 ルジェナからはアルトスの隊と入れ替わり、テグゼルの隊がフォースとリディアの護衛に付いている。イージスはその護衛の隊の中にいた。
 さらにメナウルに入ったところからは、フォースの隊にいた兵士達が周りを固めた。率いているのは城都で城内警備をしていたグラントだ。ただ、その中にアジルとブラッドの姿は見えない。
 道すがらグラントに聞いた話しによると、アジルとブラッドは神殿警備に当たっているとのことだ。そして、リディアの両親シェダとミレーヌは神殿にいるらしかった。
 シェダとミレーヌを城都から連れてきたのはグラントなのだそうた。シェダはヴァレスの神殿に仕事があるとのことだったが、神官長になってから今までにヴァレスに来たことなど一度もない。リディアに会いたいから来たのだろうと、グラントも考えているらしかった。
 怒鳴りつけても力ずくでも何をしても、すでに表立って結婚の反対すらできないことは、シェダも分かっているだろうとフォースは思う。それだけこちらの立場が大きく変わっているのだ。
 だからといって、ライザナルの皇族という立場で押し切るようなことはしたくないと、フォースは思っていた。あくまでもシェダには、一人の男として認めてもらいたい。
 リディアも緊張しているのか、見覚えのある景色が嬉しいのか、馬車の中でも眠り込まずに起きていた。
 リディアの膝掛けの下で、フォースはリディアと手をつないでいた。ジェイストークやソーンにはバレているとは思うが、ずっとそのまま放さずにいる。
 物々しい警備の中を通り過ぎる、メナウルには無い飾りが付いた馬車は、ヴァレスに入ってからさらに人目を引いた。だが開きっぱなしにした窓には、見覚えのある顔が二つある。特に騒ぎにもならずに街中を進んでいた。
 馬車はヴァレスでの滞在先になる、元々ルーフィスとフォースが住んでいた家に向かっている。馬車の窓に騎乗したテグゼルが近づいてきた。
「失礼いたします。あちらの騎士が、先に神殿に寄ってはどうかと申しているのですが」
 テグゼルの向こう側には、同じく騎乗したグラントが見え隠れしている。
「分かった。そうしてくれるか?」
「御意」
 テグゼルは敬礼をすると、列の先頭へ向けて馬を進めていく。まっすぐ視界に入ってきたグラントが、薄く笑みを浮かべた。
 街の中心に向かって馬車が進んでいく。向かう方向を指示して戻ってきたテグゼルを、フォースは呼び寄せた。
「護衛は神殿に入らないで欲しい」
「そんなわけには」
 眉を寄せたテグゼルに、フォースは苦笑を向ける。

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