レイシャルメモリー 3-03


 ライザナルの人間がいるというだけで、シェダに対する脅しになってしまう。それを理解してくれたのだろうと、フォースはジェイストークに感謝した。
 フォースはあらためてシェダと向き合うと、ていねいにお辞儀をした。腕を組んでいるリディアの手に力が入る。
「二度と来るなと言ったはずだ」
 顔を上げる前から、シェダに声をかけられた。立ち上がったシェダに対し、フォースは姿勢を正して口を開く。
「ここはヴァレスです。シェダ様の邸宅ではありません」
「バカな理屈を」
 わざわざここまで来ておいて何を言うのか、理屈をこねているのはどっちだ、と返したくなるのを、ノドの奥にグッと力を込めてこらえる。
「何度言われても許さんぞ」
 しかも、何も言っていないうちからこれだ。引き留めようと上着の裾をつかんだミレーヌの手をどけると、シェダは階段の方へと歩を進めていく。
「あきらめません。リディアさんをいただくこと、どうかお許しください」
 フォースはもう一度頭を下げた。シェダは短い息を一つついて振り返る。
「許さんと言っただろう」
「シェダ様に許しをいただけないと、リディアさんの中にしこりが残ってしまいます」
 フォースの言葉に、シェダはさらに不機嫌な顔になった。
「君はそれが私のせいだとでも言うのかね」
「そうは言っていません」
 フォースの言葉にミレーヌは、でも実際はそうなのよね、とつぶやくように言うと、シェダから視線を外し、反対側を向く。
「お前は黙っていろっ」
 さすがにミレーヌの言葉を無視できなかったのだろう、シェダは階段を上りかけていた足を止め、取って返した。
「君も、しこりが残るなどと思うなら、リディアに関わらなければいいだろう」
 正面に立ってフォースを指差したシェダを見て、リディアはシェダに背を向け、フォースに抱きつくように寄り添う。
「私は勘当された身です。フォースと別れるくらいなら、お父様に関わらない方を選ぶわ」
「だったら、なぜこの男はお前がまだ私のモノのような口をきくんだ」
 シェダはリディアの後頭部にそう言うと、フォースに視線を移した。フォースはまっすぐその目を見つめる。
「戦のこともシャイア神のことも見通しが付きました。ここまでは叶ったんです。シェダ様にお許しをいただくこと、あきらめられません」
「君があきらめようがあきらめまいが、そんなことは関係ない」
 シェダは不機嫌に視線を逸らした。その視界に眉を寄せたミレーヌが入ったのか、バツが悪そうに視線を戻す。
「リディアさんが幸せでいられる場所を手に入れたいんです。残り半分はシェダ様のお許しがいただけない限り、手に入りません」

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