レイシャルメモリー 3-04


「は、半分だとっ?!」
 声を大きくしたシェダが見開いた瞳に、フォースは思わず見入った。声に驚いたのか、リディアの腕に力がこもる。
「きっ、君は私のことを、シャイア神からリディアを取り返すのと同じくらいの面倒だと思っているのかね!」
 続く大声に、リディアがフォースの肩口に顔を埋めた。フォースはリディアの背に腕を回して抱きしめ、視線はしっかりとシェダに向ける。
「いえ、面倒だなどとは。ただ、リディアさんが辛い思いをするなら、私に何ができるかと」
 シェダは頬を引きつらせて大きく息を吸うと、空気をすべて吐き切るだけのため息をついた。
「だいたいな、あの時はまだ非常に危険な状態だった。神官長としてはともかく、親として許すわけにはいかなかった」
「はい」
 フォースは素直にうなずいた。危ない目に会わせてしまったらと思うと、自分でも連れて行かない方がいいかもしれないと思ったくらいだ。引き留めたいと思う気持ちはよく分かる。
「ひどいことを言うと思ったかもしれんが、あれは今でも本気だ。立場も環境も変わったが、君がライザナルの王族ならばなおさら、今まで以上に面倒はついて回る」
「分かっています」
 騎士は職業だが王族なのは血だ。逃れられるモノではない。
「だから、……、まぁ相手が誰であれ、一度は反対しようと思っていたのだが」
「は?」
 フォースが呆然と見つめたシェダは、肩をすくめて軽く息をつくと、苦笑を浮かべた。リディアはキョトンとフォースを見上げる。
「簡単に一緒になられて、簡単に別れられたのではリディアが傷つくからな」
 リディアはフォースと視線を交わすと、シェダを振り返った。
「今回のこともそうだが、私の反対など砂粒ほどの障害にも感じないほどのことを二人で乗り越えたんだ、このまま許さずにいる訳にもいかんだろう」
 何を言われているのか飲み込めるまでに一息の間がかかり、フォースはあらためて驚いた顔をした。シェダはワハハと空気が抜けるような笑い声をたて、あーあ、と声に出してため息をつく。
「それにだね、くださいなどというのは、降臨を解く前に言うセリフだろう」
 何か返事をしなければと思っていたフォースは、ウッと言葉に詰まった。リディアを抱いている腕が、身体の細かな震えを伝えてくる。
「もう好きにしたまえ。君ならどんな状況でも、リディアの幸せを一番に考えてくれるだろう」

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