レイシャルメモリー 3-05
シェダは力の抜けた笑みを見せた。ありがとうございます、とフォースはシェダに頭を下げる。ミレーヌが涙ぐんでいるリディアに穏やかな微笑みを向けて立ち上がった。
「だが、一つだけ条件がある」
「はい」
シェダの言葉に、フォースは一体何かと真剣に向き合った。シェダはフォースに向かってため息をつき、不安げに振り返ったリディアに視線を向ける。
「リディア、お前、絶対一人は娘を産め。この男に娘を嫁に出す寂しさを味わわせてやらねばならん」
思わず吹き出しそうになったフォースにシェダは眉を寄せ、ムッとした顔を突き合わせた。
「今、笑ったな?!」
「い、いえ、あの……」
本気で困っているフォースの肩口で顔を隠し、リディアはクスクスと笑っている。
「あなた。もういい加減になさってくださいね」
そう言いながら側に来たミレーヌに、リディアは抱きついた。ミレーヌは愛おしそうにリディアの頭を撫でながら、フォースに視線を移す。
「ありがとう」
その言葉に安堵して頬を緩ませ、フォースはミレーヌに頭を下げた。シェダは鼻先で笑うと、ミレーヌを無視するように目を逸らす。
「何が、ありがとう、だ」
「あら。リディアのことで逃げずにあなたと向き合ってくれる人がいるなんて、思ってもみませんでしたもの」
しれっとして言ったミレーヌに、シェダは何も返せずため息をついた。ミレーヌに送り出されるように、リディアはシェダと向き合う。
「お父様……」
まだ不安げにしているリディアを、シェダは引き寄せて抱きしめた。ポンポンと背中を叩く。
「幸せになるんだよ」
「私もう、ずっと前から幸せです」
リディアは優しい瞳を向けてくるシェダに微笑みを返している。ケンカをさせずに済んでよかったと、フォースは胸をなで下ろした。チラッとだけフォースと視線を合わせたシェダが、リディアの顔をのぞき込む。
「……、お前をそいつに返さなきゃ駄目かね」
その言葉にギクッとする。リディアも驚いたのか、少し離れてシェダを見上げた。
「ええ。返してください」
苦笑して返したリディアの言葉で、シェダはすでにリディアを自分にまかせてくれているのだと気付く。
「お父様とお母様がいてくださったからフォースに会えたんです。感謝しています」
リディアはシェダにそう言うと、フォースの元に戻ってきた。リディアは嬉しそうに微笑んで見上げてくる。フォースは抱きしめたい気持ちを抑えてリディアの頬を撫で、その手を肩に置いた。
「会わせるために育てたわけじゃないんだがなぁ」
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