レイシャルメモリー 3-06


 つぶやくように言ったシェダに、ミレーヌがいさめるような視線を向ける。
「と、ところで、これからの予定は?」
 ミレーヌの様子を気にしながら、シェダがフォースに口を開いた。
「はい、城都へ行ってまいります。そのあとルジェナへ戻って、居城の神殿で結婚式を」
「式を挙げるのか!」
 嬉しそうに目を見開いたシェダに、リディアがうなずく。シェダは気が抜けたように、かすかに眉を寄せた。
「そうか。それは良かった……」
 口調が暗いシェダを、リディアが心配げに見つめる。
「お父様?」
「いや、あちらの形の式となると、な」
 シェダは顔を上げると苦笑した。シャイア神に仕える神官長なのだ、やはりシェイド神の儀式には抵抗もあるのだろう。
 だが、式はメナウルのやり方と決まっているのだ、何も問題はない。フォースがうなずいてみせると、リディアはシェダに笑みを向けた。
「メナウルのやり方で挙げることになってます。シャイア様に誓えるんです」
「そうなのか?! どうしてまた……」
 シェダは疑わしげに目を細くする。フォースは思わず苦笑した。
「希望を言う前からこちらの理想に添って提案してくれたんです。二国間に早く休戦協定を結ぼうという関係もあって、急ぐことに」
 本当はついでに休戦協定をと言われたのだが、それは黙っていることにする。シェダは、そういうことか、とため息をついた。
「野合はいただけないが、結局は都合がよかったというわけだ」
 婚儀の前に通じるのは確かにいいことではないが、降臨が半分解けた状態で式が終わるまでそのままというわけにはいかないだろう。その言葉はシェダの目一杯の嫌味なのかもしれないとフォースは思った。
「お父様? 野合ってなに?」
 リディアがシェダに聞き返した。シェダは何と答えていいか見当が付かないらしく、リディアの微笑みを目の前に、慌てふためいている。
 廊下から、やぁ、と手をあげながらグレイが入ってきた。フォースは助けを求めるようなシェダを無視してグレイに駆け寄る。
「グレイ、元気そうでよかった」
「そりゃ、こっちのセリフ」
 握手をして、肩を叩き合う。見慣れているはずの顔が懐かしく、安心感もあって、本当に帰ってきたんだという気持ちになる。
「みんな元気だったか?」
「元気だよ。あ、でも、ここのところタスリルさんが店にいなくて」
 グレイの心配げな顔に、フォースは苦笑した。
「タスリルさんならルジェナにいるんだ。実質タスリルさんが領主で、俺は領主見習いみたいなもので」

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