レイシャルメモリー 3-07


「教育係か。ってことは、結構お偉いさんだったんだ?」
 グレイがポカンと開けた口を見て、フォースは肩をすくめる。
「そうらしい。いや、ライザナルでの母のことを知っていたんだから、偉くて当たり前なんだ。気付かない方がどうにかしてた」
 フォースの言葉に、グレイはポンと手を叩き、そうだよ、と大きくうなずいた。
「何ともない普段通りなつもりでいても、頭が混乱していたんだな」
 グレイにうなずきながらフォースは、混乱というよりもリディアのことばかり考えていたことを自覚して可笑しくなった。でも、たぶん自分はそれでいいのだと思う。ノドの奥で笑ったフォースに、グレイが苦笑した。
「何笑ってんだか。そうそう、サーディとスティアはルーフィス様の護衛で城都に戻ったよ。隣国の皇太子を受け入れる準備だそうだ」
 一瞬の間を置いて、自分がその皇太子だと気付く。なんとか挙式の日に休戦協定を取り付けてしまいたい。フォースは気を引き締めるように深呼吸をしてうなずいた。
 シェダに解放されたのか、リディアが側に立つ。
「グレイさん」
「よかったね」
 グレイの笑みにお辞儀をすると、リディアはフォースに向き直った。
「ねぇ、フォース? 野合ってなに?」
 その言葉にフォースは思わず吹きだしそうになる。結局シェダは、はぐらかしてしまったのだろう。グレイはそっぽを向いて笑っている。
「おいっ、君は教えんでいい。教えるなっ」
 ソファのところから声を張り上げたシェダを、ミレーヌが止めている。シェダの言う通り、その言葉が婚儀を経ずに密かに男女の関係になることだなど、自分が教えるには確かに怪しいことだと思う。
 だが実際は、含みも何もなく密かですらなかったのだから、フォースにとってそんな雰囲気は気にもならなかった。
「分かったな? 返事をしろっ」
 相変わらずなシェダにかすかな冷笑を向け、フォースはリディアの耳元で、後でね、とささやいた。

   ***

 城都の中心に建つ城が大きく見えなかったのは、ライザナルにある数々の城を見てきたからなのだろう。城の中もそうだ。ライザナルの城と比べたら、装飾も照明も調度品も、きらびやかというよりは落ち着いた雰囲気を醸し出している。
 いつもならサーディと二人で歩いた廊下を、リディアとスティアも一緒に歩いている。今はそれぞれの護衛付きで、フォースにはジェイストーク、リディアにはイージス、サーディにはルーフィス、スティアにはグラントが就いていた。

3-08へ


前ページ 章目次 シリーズ目次 TOP