レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
第3部6章 胎動の大地
4. 婚礼 01
「リディア、もう準備できたかしら。行ってみない?」
スティアの声が明るく響く。椅子でくつろいでいたレクタードは、その声を聞いて視線を窓の外からスティアに戻した。
「寄ってから行きましょう。きっと綺麗だわ」
スティアの正装したドレス姿は、レクタードの目にとても美しかった。微笑むと微笑みが返ってくる、手を引かれる、そのぬくもりを幸せだと思う。
立ち上がる勢いのまま、スティアを抱きしめ口づける。離れた顔から笑みがこぼれた。軽いキスが頬に返ってくる。
「行こう」
ええ、とうなずいたスティアと腕を組んで歩き出す。向かうのは花嫁の控え室だ。
ルジェナ城は他の城と比べて小さく、タスリルが作った警備がしっかりしていることもあり、それぞれに護衛がいらないのが気楽で嬉しい。
今日は内城壁の外側が一般に開放され、料理が振る舞われているのを城の塔から見た。このあたりでここまで大きな祭りはなかっただろう。羽目を外す奴も出てくるだろうと思うが、それでも個々の護衛は必要ないらしい。
この幸せな状況は、ほとんどフォースがつかんだのだと理解している。それは自分が一番でいること、つまりはフォースを暗殺する方を選ばなかった時、同時に決まったことだ。
そのせいか、まるで夢を見ているようだとレクタードは感じていた。そして、これでよかったのだと心から思う。影も払拭され、民衆も明るい。神の守護者という血を持たない自分には、どうやってもできなかったことだ。
でも、これからは自分の手で守っていかなくてはならないモノがある。
「そうそう、リディアの方が断然綺麗だって噂を聞いたのよ? もう、分かってるのに、どうしてそういうこと言うのかしらね」
そう言ったスティアの表情は、陰りのない笑みを浮かべたままだ。レクタードは苦笑を返した。
「みんながみんなそう思うワケじゃないだろ。それに俺はスティアの方が可愛いと思ってるんだし。それじゃ足りない?」
「ううん、全然足りるわ。でも、綺麗じゃなくて可愛いなのね」
クスクスと笑うスティアと笑みを交わす。その次の瞬間に、スティアの顔に陰りが差した。感情をまっすぐ伝えてくる表情がどんなものでも、レクタードの目には魅力的に映る。
「そういえばね、兄が私の立場を殉国だなんて言うのよ? 犠牲だなんて、やめて欲しいわよね」
殉国という響きに、なるほどと思う。確かにお互いが知らない間柄だったとしても、両国の友好のために結婚させられたかもしれない。
「いいんじゃない? これ以上ないってくらい幸せな殉国にしてあげるよ」
嬉しい、と言いながら、スティアが抱きついてきた。キスを交わして微笑み合う。思わず人目が気になってあたりを見回し、また二人で押し殺した声で笑った。
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