レイシャルメモリー 4-02


 部屋のドアの側で、シェダがうろうろと行ったり来たりしているのが目に入ってきた。スティアは少し足を速める。
「シェダ様、落ち着かないんですね」
 その声に振り向いたシェダが、レクタードとスティアにお辞儀をした。
「いらしてくださいましたか。ええ、もう式を待つだけなのですが、まだ何かあったのではないかと気が気ではなくて」
 シェダはそう言うと、張り付いたような笑みを浮かべ、ドアを開けた。
「どうぞ、お入りになってください」
 部屋にいたリディアの母であるミレーヌが気付き、深く頭を下げる。スティアはていねいにお辞儀を返してレクタードの手を取ると、中に入った。
 その手がするっと離れ、レクタードはスティアの駆け寄った先に目を見張った。窓から差し込んでくる日差しに照らされ、一瞬リディア自身が光り輝いているように見えたのだ。
 フワッと緩く結い上げられ、リボンと花飾りで飾った琥珀色の髪で、光がキラキラと遊んでいる。見え隠れするうなじは、どこまでも白くなだらかでつややかだ。しっかり化粧をした顔はあでやかさと優美さを両方兼ね備えていて、外見上、皇太子妃として非の打ち所はどこにも無い。
「リディア、すごく綺麗よ!」
 リディアは立ち上がって迎え、スティアはリディアを抱きしめた。生成りが目に柔らかな、長いドレスがフワッと揺れる。
「ごめんなさい。本当ならもっと早くフォースのお嫁さんだったのに、私のせいで……」
 リディアは首を横に振った。
「こんなに幸せなのは、スティアのおかげもあるの。感謝してるわ」
 スティアの頬に涙がつたうのを見て、レクタードはハッと我に返った。歩み寄ってスティアの手を取る。
「ほら、ドレスを汚したら大変だよ」
「そうか。そうね」
 スティアはレクタードに向き直ると涙を拭いた。その顔をじっと見ていて、ふとリディアが嬉しそうに目を細めて二人を見ていることに気付く。顔が赤くなった気がして、レクタードは息で笑い、肩をすくめて見せた。
「リディアさん、その姿、フォースにはもう見せた?」
 リディアが軽く首を横に振ったのを見て、スティアが引き継ぐ。
「メナウルではね、その日神殿に入るまで、当人同士は会えないことになっているの」
「そうなんだ?」
 聞き返したレクタードにうなずき、スティアはいたずらな笑みを浮かべる。
「ねぇ、フォースを茶化しに行きましょう?」
「でもリディアさんに会ってないんじゃ不機嫌かもな」
「だから面白いんじゃない。リディアがとっても綺麗だって、たくさん話してあげなきゃ」
 そう言うとスティアは、あっけにとられているリディアに小さく手を振った。
「じゃあ、頑張ってね。後でね」

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