レイシャルメモリー 4-03


 リディアのあきらめたような苦笑に見送られて部屋を出る。入れ替わるようにシェダが中に入っていった。
 隣にあるフォースの部屋の方向を見て、廊下を歩いてくるアルトスが目に入った。式まで会わないということは、先にフォースを迎えに来たのだろうか。アルトスが歩み寄ってくる。
「レクタード様、スティア様、そろそろ神殿へお越しください」
 分かったとうなずいて見せ、レクタードはスティアの手を取った。
「父上は?」
「すでに、いらしております」
 アルトスが頭を下げた向こうでドアが開いた。宝飾の鎧を身に着けたフォースと、その後ろからナルエスが部屋を出てくる。スティアが一度吹き出してから、レイクス様、と、うやうやしく頭を下げた。
「バカやろ。わざわざこんな物持ってきやがって」
 フォースはそう言うとため息をつく。式服も作ってあるのだが、宝飾の鎧の豪華さにクロフォードが惚れ込み、押し切ったのだ。宝飾の鎧は確かに名前の通り、そのままで充分に宝飾品だ。
「また作り替えなくてはいけないのだと、兄が申しておりました。誰かさんのおかげで」
 フォースはウッと言葉に詰まってから、俺のせいじゃないだろ、と返し、胡散臭げに横目でスティアを見ている。
「すっごい綺麗だったわよ? リディア」
「別に。いつだって綺麗だ」
 不機嫌な声に、スティアは一瞬レクタードを見てから、もう一度フォースと向き合った。
「ぶっきらぼうにしてないで、綺麗だと思ったら綺麗って言ってあげなさいよ?」
「そんなこと言い続けてたら、他に何もする暇がないだろ。ったく」
 じゃあな、と短く息を吐くと、フォースは神殿へ向かって歩き出した。思わずスティアと視線を合わせる。
「ねぇ、なんだか、いい感じにボケてない?」
 スティアの言葉に、思わず吹き出しそうになる。スティアは笑みを浮かべると、レクタードの腕を取って引いた。
「私たちも行きましょう。フォースがリディアの花嫁姿を初めて見るところは見逃せないわ」
「確かに」
 ライザナルの挙式は、最初から最後まで二人一緒にいられる。フォースはライザナルの皇帝になるのだから、ライザナルのやり方で式を挙げればいいのにと思う。
 スティアに抱かれた腕が温かい。レクタードはスティアに笑みを返し、二人で一緒に歩き出した。

   ***

 先に神殿に入り花嫁を待つ時間は、見せ物のようでひどく苦痛だろうと、フォースは常々思っていた。

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