レイシャルメモリー 4-04


 実際、花束とグラスを手に、講堂の真ん中を通って祭壇前に行く時は視線を浴びた。だがその後は、幾人かの視線は感じるものの、思ったほどの苦痛にはならなかった。むしろ手にしているグラスから水がこぼれないように気をつけていることの方が、辛いと思う。
 ライザナルの人間には物珍しいだろうシャイア神の祭壇か、そうでなければ後方の扉に、人の目は向けられている。この神殿にいる者は、フォース自身も含めて考えていることは同じなのだろう。早く花嫁が見たいのだ。
 たまに視線を感じても、宝飾の鎧のおかげか、目が合うことはほとんどなかった。サーディとユリア、バックスとアリシアが、わりと側にいて、目配せをしたくらいだ。気楽でいられるせいで、フォースはただリディアが現れるのを楽しみに待っていた。
 神殿の講堂は大きくはないが、すべての席が埋まっている。花嫁を連れてくるシェダを含め、お互いの両親が一番前の席と決まっているだけで、特に席順などはない。クロフォードはリオーネとニーニアを従え、一番前の席にいる。その横にはレクタードとスティアもだ。
 フォースは、そこにルーフィスも呼ぼうと思っていた。だが、警備を優先させるため、神殿入り口付近にいると報告を受けたのだ。残念だとは思ったが、話ができるわけでもなく、改めて考えるとその方がずっとルーフィスらしいとも思う。
 ふと聞き慣れた声が聞こえ、神殿の真ん中あたりに視線を向けると、アジルとブラッドがフォースに手を振ってきた。二人の取って付けたような正装が可笑しくて笑みを浮かべると、二人はそれに答えるように振りだけでおどけて見せ、またまわりに溶け込むように動かなくなる。
 祭壇裏のドアが開き、正装したグレイが出てきてフォースに歩み寄った。まさかとは思ったが、やはりグレイが挙式を仕切るらしい。フォースに笑みを向けると、グレイは講堂を見渡した。いくらか話し声の聞こえていた講堂が、静かになる。
「ただいまから、シャイア神の御子であるフォースとリディアの結婚式を挙行いたします」
 誰もが同じ一人の人間だとの意味で、御子といいながら慣例通りに名前を呼び捨てられる。肩書きの一つもなく、聞き慣れた名前で呼んでもらえることが、フォースには快感だった。
 クロフォードに反対されるのではと思ったが、メナウルのやり方での挙式にまで譲歩してしまったため、すでにどうでもいいらしい。マクラーンでの披露目の時にはライザナルの慣例通りにすると、交換条件を出されただけで済んだ。
 グレイの合図で神殿の扉が開かれる。その向こうに陽の光を浴びて、花束を手にしたリディアが立っていた。神殿が感嘆の声に包まれる。
 視線を上げたリディアと目が合うと、愛おしい気持ちが痛いほど胸にわき上がってきた。綺麗だと思ったどんな時よりも、さらに美しく見える。一緒にいられなかったのは、たった半日だったが、駆け寄らずにこの場に立っていることすら、フォースには苦痛に感じた。

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