レイシャルメモリー 4-05


 フォースと同じグラスを持ったシェダがリディアの側に立ち、空いている手でリディアの手を取ると、二人でゆっくり祭壇の方へと歩を進めてくる。リディアがフォースの隣に並び、その向こうにはシェダが立った。グレイがシェダと向き合う。
「リディアを嫁がせることに異議はありませんか?」
「ありません」
 キッパリと張りのあるシェダの声が嬉しい。グレイはうなずくとフォースとリディアに献花を促した。手にしていた花束を二人で一緒に祭壇へと置く。リディアの空いた手に、シェダはグラスを渡して席に着いた。
「それでは、プロポーズの言葉を」
 グレイにそう言われ、フォースはリディアと向き合う。まわりが一層シンとした気がした。
「リディア。……、綺麗だ」
「プロポーズと違う」
 小声でのグレイのつっこみに苦笑する。緊張していたのだろうリディアが、柔らかな微笑みを浮かべた。フォースは改めてリディアを見つめる。
「一生涯愛し続ける。そばにいて欲しい」
 はい、とうなずき、リディアは顔を上げた。
「ついて行きます」
 その潤んだ瞳に、人前でもかまわないから、段取りを無視して力一杯抱きしめたいとフォースは思った。挙式というのは、どうしてこんなに堅苦しいのだろう。
「水の授受を」
 グレイに促され、フォースは持っていたグラスを差し出し、その水をリディアに飲ませた。お返しにリディアが手にしている水をフォースが飲む。
 シャイア神は水にたとえられるので、こういう儀式があるのだ。互いの故郷の水に慣れ、互いの渇きを癒す存在になるとの意味があるのだと、グレイに教わっていた。
 水の残りを一つの入れ物に流し込み、グラスをその奥に並べて置く。カチンと音がしてグラスが並んだ。
 グレイがフォースとリディアの手を取って重ね、二つのペンタグラムを繋がれた手の手首にかける。
「誓いの言葉をどうぞ」
 その言葉に、リディアと見つめ合い、呼吸を合わせた。
『シャイア神の御子として、いかなる時も変わることなく誠実に、愛情、尊敬、信頼を持って、共に歩んでいくことを誓います』
 プロポーズの言葉とは違い、誓いの言葉はすべて決まっている。結婚式に出席するたびに聞いていた言葉だ。声を合わせ、よどみなく言えてホッとする。
「誓いの封印を」
 そう言ってグレイが手にした布地は、いつも式で使っていた布よりも光沢がある。不思議に思って見ていると、フワッと頭上からかけられたその布は薄く、透き通っていた。

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