レイシャルメモリー 4-06


 誓いの封印に透き通った布など、今まで見たことがない。布を用意したというサーディが、ユリアと視線を合わせて笑っているのが布越しに見える。
 文句を言いたくなったが、誓った言葉を口づけでお互いの中に封じ込めるために、誓いの封印という儀式があるらしい。まさか文句まで封じるわけにはいかないので、何も口にしないよう、グッと我慢した。
 リディアは手を口元に当ててうつむき、笑っているのだろうか、肩を震わせている。フォースはペンタグラムのかかっていない方の手をリディアの腕に添えて向き合った。見上げてくるその微笑みに、布が透けていることなど、どうでもよくなってくる。
 ゆっくりと顔を近づけ、唇と唇を合わせた。ワッと歓声が上がる。丸見えなのだろうから仕方がない。腹が据わったからか、これでリディアは自分のモノだ、しっかり見ておけ、などとフォースは思った。
 唇を離して笑みを交わし、手にかかっているペンタグラムを取る。フォースが自分で持っていたペンタグラムはクロフォードに返してしまったのだが、クロフォードはその代わりにと新しく作ってくれていた。それをリディアの首にかける。ライザナルでも滅多に採れることのない青い金剛石なのだそうだ。
 石の中では最も堅く非常に高価だ。ライザナルの一部でしか採れない石で作られたペンタグラムが存在していること、それをリディアが持っていてくれることを、フォースはとても嬉しく思った。
 もう一つのペンタグラムをリディアの手でフォースの首にかける。元々リディアが持っていた物で、何度も自分を救ってくれた大切な宝物だ。
 グレイは祭壇に供えられていた二つの花束を、左右の席に渡した。その二つの花束から、参列者が花を抜いて隣に渡していく。
 二人で頭から被っていた透明な布が、グレイによって取り除かれ、フォースに手渡された。布の端を探し出し、リディアと二人できちんとたたむと、腕にかけて持つ。
「フォース」
 静かな口調でグレイが口を開く。
「そなたには、なぜリディアなのか、なぜ今なのか。リディア。そなたには、なぜフォースなのか、なぜ今なのか。その意味を決して忘れることの無きよう」
 その言葉に応え、リディアと二人で深く礼をする。頭を上げたフォースに、グレイから細い糸で編まれたレースのリボンを渡された。講堂の方を向いたフォースとリディアの間に、グレイが立つ。
「これで二人は晴れて夫婦となりました。二人の幸せを願い、どうぞ祝福の花をお贈りください」
 その声を合図に神殿が歓声に包まれ、参列者が中央の通路に向かって花を投げ始めた。フォースはその花を一本ずつ拾ってリディアに渡す。すべての花を拾い、二つだった花束をリボンで一つにまとめ、初めて神殿を出ることができるのだ。花を投げた参列者は神殿を出ていき、外で二人を待ちかまえている。

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