レイシャルメモリー 4-07


 ふと、サーディと目が合った。その手から花が弧を描いて足元に落ちる。フォースはそれを拾い上げ、サーディに視線を向けた。
「この布、サーディの時まで大切にとっておいてやるよ」
 フォースが手にした布地を指し示すと、サーディは可笑しそうに笑みを浮かべる。
「バカ言え。新しいの寄こせよ」
 本当に、そんな日が早く来たらいいとフォースは思った。ずっと悩んでいたのを知っているからこそ、サーディにも幸せになって欲しい。
 すべての参列者が外に出て、残された花を全部拾う。フォースはリディアが抱えているたくさんの花をリボンで結んだ。そこにグレイが顔を出す。
「おめでとう。嬉しかったよ。まさか俺がフォースとリディアの結婚式をやれるなんて」
 フォースは、グレイが差し出した手を握る。
「色々ありがとう」
 隣でリディアも頭を下げた。グレイは、ああ、と返事をして笑みを浮かべる。
「外でみんなが待ってるよ」
 グレイはそう言うとフォースとリディアの背中を押した。フォースは笑みを返すと、リディアの手を取って神殿の外へと足を踏み出した。

   ***

 神殿前には式の間に食事が用意され、参列した客はそれぞれの場所で会話に興じている。ほとんどの参列者と話を終え、フォースとリディアは会場の片隅にいたルーフィスを、ようやく捕まえていた。
「そいつはあまり役に立たんぞ。腹が減ったと言っても、芋の皮を剥いて茹でることしか知らん」
 ルーフィスの言葉に、リディアがクスクスと笑う。
「は? 食ってたじゃねぇか」
 フォースの反論に、ルーフィスはフッと息を吐く。
「塩すら入れ忘れることがあったからな。マズいったらない」
「大丈夫です。作るのは好きですから」
 そう言って笑ったリディアに、ルーフィスは笑みで応えた。
「終戦協定を結ぶ時には、陛下の護衛でマクラーンにお邪魔するよ」
「だったら、その時にでも母の墓に」
 フォースが言いかけた言葉を、ルーフィスは手でさえぎる。
「わざわざ見たいとは思わんよ。私が知っているエレンだけがエレンではないことくらいは理解している。それに遺体は渡したが、心までは取られようがないのだしな」
 ルーフィスはエレンを忘れていないし、忘れようともしていない。忘れなくていいのかもしれないが、ずっと変わらずにいることが、ルーフィスにとって幸せなのかはわからない。だがもしこのままでいることが幸せだと思っているなら、ひどく寂しいことだと思う。

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