レイシャルメモリー 4-08
「ちゃんと見ろよ。俺が墓に案内する」
思わず声が不機嫌に響いた。
「何を怒っている」
ルーフィスからは、いつもと変わらない口調で返事が返ってくる。
「怒っちゃいないけど。もういい加減自分が幸せになることを考えてもいいんじゃ……」
「私は今でも充分に幸せだよ。それに、お前に老後の面倒を見ろとは言わんから安心しろ」
老後などという言葉が出るくらいだ、やはりいくらかは不安に感じているのだろうと思う。フォースが眉を寄せると、ルーフィスは笑みを浮かべた。
「見てもらうならリディアさんだな」
「はぁっ?! ばっ、バカやろっ! 俺が嫌なら誰か見つけてサッサと結婚しろ!」
慌てて返した言葉に、ルーフィスは声を立てて笑う。
「そんなに結婚して欲しいなら、私が羨ましいと思うくらい幸せになって見せろ。話はそれからだ」
そう言うと、ルーフィスは笑いながら背を向け、休戦協定を結ぶための準備をしている騎士の方へと去っていった。
「幸せに見えてないなんてこと、無いよな?」
呆然と見送ったその腕に、リディアが腕を絡ませてくる。
「今より幸せなんてこと、あるのかしら」
リディアは、ルーフィスが入っていった扉を見つめている。自分がリディアを見るのと同じように、ルーフィスが母を見ていたことを思い出す。ルーフィスは同じ幸せなら、すでに持っていると言いたいのかもしれない。
「昨日より愛してる。毎日、そう思う」
「フォース?」
突然の言葉に恥ずかしそうに頬を赤らめ、リディアは伏し目がちにフォースを見る。
「これ以上なんて無いと思うのに、それでも一瞬前より好きなんだ。幸せだと思うのもそれと似ている。式が終わって神殿を出た時、これ以上は無いと思った。でも俺、今の方が幸せだ」
リディアの表情が微笑みに変わった。フォースもリディアに笑みを向ける。
「きっと幸せも重ねていくモノなんだ。父だって、そのうち納得せざるを得なくなる」
うなずいたリディアと見つめ合う。唇を寄せ合ったその視界の隅に、緑色の物体が飛び込んできた。思わずそっちに顔を向ける。
「ティオ?!」
大きい姿のティオは、子供に姿を変えながら駆け寄ってくる。
「キスしたかったらすればいいじゃない。俺、待ってるし」
ケラケラと笑うティオに、フォースは苦笑した。
「心配してたんだぞ?」
フォースの心を読んだのか、ホントだ、と、ティオは長い舌を出す。
「ごめん。リーシャがこっちに来たくないって言うから」
ティオが振り向いた先を見ると、城壁の上で組んだ足に肘をついた格好で、リーシャが座っているのが見えた。見られたのが分かったのだろう、ツンとそっぽを向く。
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