レイシャルメモリー 4-10


 実際水はノドから手が出るほど欲しい。水源の少ない国境近辺のことだ、安定した水が手に入れば収穫量は格段に増える。フォースはそれも分かっているのだ。真剣な目がサーディを見据えている。
 フォースの挙式のあとに休戦協定を締結し、今は終戦も視野に入っている。こんな時だからこそ、両方の欠点を補い合える事項を示すことが、終戦の反対派を押さえるためにも有効に作用するだろう。
「まぁ、善くも悪くも運命を共にする部分があるってのは無駄にならないよな」
 そう言うと、サーディは大きくうなずいた。
「了解、分かったよ。帰ったら詰めてみる」
「頼むよ」
 そう言って笑ったフォースは、いつもの友人としての顔のままだ。国と国の話し合いをしているというよりは、ゲームでもしているように感じる。だが、フォースのライザナルは面積も広いし人も多い大国だ。半端な気持ちで対応はできない。
「スティアが嫁に行くって決まったからかな。メナウルは付属品、みたいな図式が出来上がっちまった気がする」
 ペロッと舌を出してみせると、フォースはのどの奥で笑った。
「だったらニーニアと結婚すればいいじゃないか」
「は? ……、今なんて言った?」
 聞こえてきた言葉が信じられず、思わず真顔で聞き返す。
 部屋の奥にあるドアが開き、リディアが新しくお茶を持って入ってきた。リディアと笑みを交わし、フォースは再び口を開く。
「だったらニーニアと結婚すればいいじゃないか」
「ホントに一字一句繰り返したな? 八歳のお姫様は、フォースと婚約してたんじゃ」
 リディアには禁句だっただろうかと、サーディは口をつぐんだ。お茶を取り替えているリディアは、表情を変えずに微笑んだままだ。フォースは苦笑して肩をすくめる。
「そんなものは、もう最初から無かったことになってる。なんのために余計なことを全部解決したと思ってるんだ」
 フォースが手を伸ばした先はテーブルの影で見えないが、一瞬フォースを見たリディアに触れたのだろうことは分かった。
「そりゃあリディアさんのためだろうけど。立派に平和に貢献したんだぞ?」
 そう言うと、フォースはいくらか不機嫌な顔を向けてくる。
「でも、リディアがいなきゃ、たぶん何一つしてない」
 サーディは、ため息をつきついでに、ああそう、と口にした。フォースの単純なところは、何をやっても変わらないのだろう。そう思うと嬉しい気もする。
「べつにニーニアと俺が結婚しなくても、レクタードとスティアで婚姻関係はできるんだし」
 リディアが礼をして元来たドアへと向かっていく。目で追っていたフォースがサーディと向き合った。
「でもそれでサーディの言う付属品もお互い様になるだろ。それに、まだ結婚しないなら、ちょうどいい。五、六年もすればいい歳だ」

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